第3話 飛んで火にいる夏の虫

 『ドンドン・ドンドン』



 「治療をしてくれ!すごく痛くて死にそうなんだ」



 私は学校を卒業して治療院を営んでいた。エールデアース帝国では、『治癒師』の『称号』を授かった者の卒業後の進路は、治療院で働くか国の組織に入り魔法省に所属するのが基本である。治癒院で働くのはレベルの低い治癒師であり、一定水準のレベルの治癒師は、魔法省に所属して魔法部隊や帝国病院に勤務するのである。


 貴族は病気や怪我をすると帝国病院にて治療を受けるのが基本である。しかし、貴族でも貧乏な者は帝国病院は値がはるので、治療費の安い治癒院で治療をするのである。


 ロワルド男爵は貧乏貴族なのうえに、奴隷を買ってしまってので、帝国病院に行くお金がなかったので、仕方なく私が経営している治癒院に来たのであった。



 「治癒院は19時までです。緊急の方以外の治癒はしていません」



 ソルシエールがドア越しで対応をする。



 「今にも死にそうだと言っているだろ!すぐにでも治癒しやがれ」


 「お声の状態からとても元気なように感じられるのですが?」


 「黙れ!俺の体は俺が1番わかっている。俺が死にそうだと言ったら死にそうなんだ!」


 「わかりました。しかし、今は時間外の治癒になりますので、時間外加算が付きますので、治癒料金は1.5倍になりますけどよろしいでしょうか?」


 「俺はロワルド男爵だぞ!底辺の治癒院が俺からお金を取るつもりなのか?無償で治癒しろ!」



  治癒院は貧乏貴族や平民を治癒する施設なので、高貴な貴族からはバカにされている。



 「高貴な貴族様なら帝国病院で治療することをお勧めします。治癒レベルも値段も数段上でございますので」


 「ばかやろーお金がないからここに来てやったのだ!」





 「ソルママ、今ロワルド男爵って言ってなかったぁ?」



 私はソルシエールのことをソルママと呼んでいる。



 「そうね。ターゲットの方からこちらに出向いてくれたみたいだわ」


 「私にいい考えがあるの。ロワルド男爵を中へ入れてあげて」




 「早く治療しろ!ただで治療しろ!」


 「わかりました。あの有名なロワルド男爵でしたら無償で治癒いたします」


 「それでいいのだ。俺様に恩義を売っておくとそのうち良いことが起きるはずだ」


 「どうぞお入りください」



 ソルシエールは扉を開きロワルド男爵を診察室に案内した。



 「お前いい女じゃないか。俺の嫁にしてやってもいいぞ」



 ソルシエールを見たロワルド男爵は、いやらしい目つきでソルシエールの体を舐め回すように足の先から首筋までゆっくりと目をやる。



 「私は貴族ではありませんので、期待に応えることはできません」



 エールデアース帝国では貴族同士でしか結婚はできない。



 「それなら奴隷契約を交わしてやろう。お前ほどの美人なら俺が一生面倒を見てやってもいいぞ」



 奴隷契約とは、書類上のみの契約であり、小説であるような奴隷契約をすれば、魔法によって拘束されるようなことはない。しかし、法的な拘束力はあるので契約主に逆らうようなことをすれば捕まってしまう。



 「アルカナ様の許可が必要になりますので、詳しいことはアルカナ様に確認をとってください」



 ソルシエールは、自分の『称号』を私にすらあかしていないので、平民扱いになる。エールデアース帝国では、平民とは貴族または王族の親から生まれた『称号』なし人物のことをさすので、一般的な平民とは少しニュアンスが違うのである。


 それでは一般的な平民とはどのような存在か説明しよう。


 一般的な平民は家畜と呼ばれ、大きな体育館のような建物に男女別で300人単位で暮らしている。月に一度男女を一緒の建物に収容して性行為をさせて種付けをさせる。子供と女は同じ大きな体育館で暮らすことになるが、適当に配属されるので親子関係は無縁である。平民は家畜として、農業・雑務・軍の補助業務などをさせられ、優秀な平民は、家畜でなく平民奴隷として、町での生活を許されて商業や、家畜の管理などを任されるようになる。平民とは家畜・平民奴隷・平民と3つの区分に組織される。


 ソルシエールは、私の母としてエールデアース帝国に入国した。書類上ではデンメルンク王国では下級貴族であるとされていたが、ソルシエールは『称号』は持っていないと記載されているので平民扱いなのである。しかし、ソルシエールの戦闘能力は桁外れに強いので、私はソルシエールが『称号』なしだと思っていない。ルティアに関しては私の護衛奴隷として契約していることになっている。



 「あなたがロワルド男爵ですね。ソルママは私のママなので奴隷としてお譲りすることはできませんよ」



 診察室にきたロワルド男爵に笑顔で私は対応する。



 「こんなかわい子ちゃんが治癒院を経営しているのか?お前は貴族だろ?俺の嫁にしてやる。そうすれば、あいつも俺のモノになって一石二鳥って奴だろう」

 「ガハハハハ・ガハハハハ」



 ロワルド男爵が顔をしわくちゃにして下品な笑い声を上げた。



 

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