第4話 診断

 「結婚のお話はとても嬉しいのですが、たくさんの貴族様から縁談の話を受けているので、すぐには返事することはできないですよ」



 私はロワルド男爵の目をじとぉ〜と見つめながら言った。



 「可愛い!絶対に俺の嫁にしてやるぞ。男爵家の俺様が一声かければ他の貴族たちなどびびって逃げるはずだ。お前に求婚しているのはどこ何奴なのだ!」



 ロワルド男爵は鼻息を荒立てながら大声で騒ぐ。


 エールデアース帝国では、1番身分が下の貴族は騎士であり次に男爵である。偉そうに吠えているロワルド男爵であるが彼も下級貴族である。しかし、貴族の6割は騎士であり、残りの3割が男爵と子爵であり、伯爵以上の爵位のある者は貴族の1割である。騎士・男爵は下級貴族と呼ばれ、子爵は中級貴族であり、伯爵以上が上級貴族である。



 「そうですねぇ〜、この前に求婚されたのはアルドリック様ですわ」


 「アルドリックだと・・・そいつはどこの騎士だ。俺がそいつを懲らしめてやるぜ」


 「確か・・・エーデルメタル公爵家の御子息だったかしら?」


 「エーデルメタル公爵家・・・・・・。そうだ!今日は俺は治療に来たのだった。正義感が強く悪を許せない俺だが、今日は治療に専念するとしよう。それに、治癒費のことですが、、明日必ず支払うので付けにしておいてください」



 エーデルメタル公爵家の御子息から求婚の申し出があったと聞くと、ロワルド男爵の態度は一変して、借りてきた猫のように大人しくなてしまった。



 「それでは、治癒をしますのでベットに横になってくださいね」


 「はい」



 ロワルド男爵は元気よく返事をする。



 「それでは、治癒する前に体に異変がないか調べますよ」


 「えっ、今日は右手と右足の痛みで治癒院に来ました。なので、他は全然問題はありません。いろんなところを調べてもらっては、料金がアップしてしまいます」



 ロワルド男爵はできるだけ安く抑えたいのである。



 「全身の検査はサービスなので検査費は取りませんよ。もし、どこか具合が悪い場所を見つけたら、そこを治癒するかは、じっくり考えてからお決めになってくださいね」


 「わかりました」



 普通は治癒院どころが帝国病院でも体のくわしい検査などしない。というよりもできない。私は『聖女』なので『診断』というスキルを持っているので、この『診断』によって、対象の人物の全ての体の構造を調べることができるのである。そして、そこで得た情報は『カルテ』という付属スキルによって、いつでも自由に閲覧することができる。


 私は親指と人差し指を立てて、他の指を握り左右の2本の指をくっつけて四角形を作り、その自分で作った四角形を覗き込みながら、ベットに横たわっているロワルド男爵を『診断』する。『診断』をするにはこのポーズをする必要はないのだが、『診断』している雰囲気を出すための演出である。


 ロワルド男爵 40歳 性別男 身長160cm 体重80kg ⭐️『称号 商人』ランク1【ランクはマックスで5である】⭐️スキル『鑑定』商品の価値を知ることができる。鑑定レベルは1である。ロワルド商店は悪どい商売をしているため閑古鳥が泣いている。このままの経営だと1年後に破産する。⭐️性格 わがまま 傲慢 残忍 弱い者をいたぶることによって満足感を得る。⭐️症状 肥満により膝に負担がかかり膝をいためている。硬いものを殴って右手の甲の骨が折れている。硬いものを蹴って右足に打撲がある。酒の飲み過ぎによって脂肪肝が確認される。禁酒しないと2年後には肝炎・肝硬変になる。⭐️犯罪歴 逮捕歴はない。今まで平民奴隷を38名殺し何度か起訴されているが、全て無罪の結果を得ている。



 「診断できました」


 「どのような結果が出たのでしょうか?」


「右手の甲の骨が折れていますよ。そして、右足は打撲ですので、右足はすぐに治すことができます。それに、お酒の飲み過ぎで脂肪肝になっていますので、お酒を控えて運動をして痩せた方がよろしいですよ」


 「お酒はやめることはできないです。それと、右手は治らないのですか?」


 「そうですね。帝国病院でしたら1回の治癒で完治しますが、私では2回の治癒が必要になります。1回の治癒からは2時間は間を空けないといけないので、明日また来られるか、2時間後に往診をしましょうか?」


 「うちに来てくれるのでしょうか?」


 「はい。少しでも早く治癒して欲しいのでしたら往診させていただきますよ」


 「わかりました。往診をお願いします。治癒費もその時に必ずお支払いします」


 「わかりました。では、治癒をしますね」



 『聖女』の『レア称号』を持っている私に治せないモノはほとんどない。右手の骨折に脂肪肝、それに、イカれた性格まで治すことはできる。しかし、力を見せることができないので、治癒院のレベルのそった治癒しかしない。『診断』によるアドバイスはあくまでサービスであり治すことはしない。



 「足の痛みがなくなりました。右手の腫れもだいぶ引いたみたいです」


 「右手は完全に治っていないので無茶をしないでね。では、ロワルド男爵の住所を教えてくださいね」



 ロワルド男爵は、私に住所を教えるとすぐに屋敷に帰って行った。




 「この場で殺してしまった方が良かったのでは?」



 2階で怒りを抑えていたルティアが診察室に降りてきた。



 「殺しはダメよ」


 ソルシエールがルティアの提案を否定した。



 

       

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