第2話 止められない怒り

 

 私の名はアルカナ・レーヴァンツァーン。元デンメルンク王国の王女であるが、私が6歳の時、父ロード国王が殺され、自分の命も狙われてしまったので、デンメルンク王国から逃亡し、アルカナ・レイフォールと名を変えて、エールデアース帝国へ魔法留学という名目で入国することに成功した。


 この世界では生まれた時に、人生の全てが決定すると言っても過言でない出来事がある。それは『称号』という『能力』を授かって生まれてくるかどうかである。『称号』には3種類あり、『レア称号』『職業的称号』『変異種称号』である。そして、『称号』を授かるのは平等でなく血筋である。平民が『称号』を授かる可能性は1%未満であり、貴族は50%で王族関係者は90%である。



 「アルカナちゃん、今回のターゲットはロワルド男爵よ」



 私に声をかけてきたのはソルシエール・レイフォール、私の母親である。もちろん本当の母親ではなく、母親役として私と一緒にデンメルンク王国から入国してきた。ソルシエールは、髪型など無頓着で乱雑に跳ね上がった赤髪ショートの美しい女性である。ソルシエールは私の育ての親とも言えるシェダルから紹介された女性で、彼女の『称号』は不明である。彼女は魔法は使えないが格闘技が得意なので、『格闘家』のような『称号』を持っているのだと私は思っている。



 「ロワルド男爵は何をしたの?」


 「誘拐されたオーク族の女の子を性奴隷として購入したそうよ。早く救ってあげないと酷い目に遭うはずよ」


 「それは・・・ひどい」



 私が留学したエールデアース帝国は、デンメルンク王国と同様に亜人種の差別が酷い国であった。亜人種とは、人間の姿に似ている種族で、主にゴブリン、オーク、トロール族などが亜人種と呼ばれている。亜人種は人間の姿に似ているので、女性は性奴隷として男性は肉体労働奴隷として誘拐される事がある。亜人種は人間の数倍の力・頑丈な皮膚・固有のスキルを持つので、人間よりも強いのだが、『称号』持ちの人間が大勢で計画的に誘拐するので、犠牲になるものも少なからずいるのである。



 「許せない。ロワルド男爵は私が殺してやるわ」


 「ルティアちゃん、落ち着いて」



 ルティアとはゴブリン族の女性である。ルティアは元性奴隷であり、私の兄であるモナーク第1王子に娼館で、顔の原型がわからなくなるほどにボコボコにされた後に蹂躙され、性奴隷として使用不可能になったため、スラム街に捨てられたところをケルトとヒーリンに救われた。その後、私の魔法によって姿を元に戻し、命を救ってあげたのである。私はルティアの精神面をサポートしながら魔法の修行を共にして、20歳になったときルティアはゴブリンクィーンに進化し大きな力を得ることができた。


 ルティアはゴブリンクィーンに進化して、背も急激に伸び180cmと女性にしてはかなり背は高い。その上、体の線は細くモデルのような体型をしている。なので、出るところは出ているので、町を歩くと男性達から好奇の眼差しでジロジロ見られるのがとても苦痛であるらしい。


 ルティアはゴブリンなので肌は緑色で、頭に小さなツノが2本生えている。髪はソルシエールと同様に乱雑な金髪のショートカットで、鋭い赤い瞳はミステリアスな雰囲気を醸し出し、亜人種にも関わらず人間からは憧れ的な存在になっていた。もちろん、過去にモナークに酷い扱いを受けたルティアは、人間の男性が大嫌いである。


 ついでに私のことも紹介しておこう。6歳でエールデアース帝国に留学した私だが、『聖女』という『レア称号』を授かったために3歳の頃から父親であるロード国王から、人体実験で魔法の勉強を強要されてきた。私の勉強のために、何百人の人間が、腕や足を切断されたり、全身の皮を剥がされたり、目をくり抜かれたりと、あらゆる悍ましい仕打ちを受けた後に、私が魔法で治癒していた。今でも私はあの時耳にした悲痛な叫び声が聞こえてくる。


 私は『聖女』の『レア称号』を授かっているうえに、父による実戦的な方法で魔法を勉強し、さらにシェダルにも魔法のことを教えてもらっていたので、最高の魔法技術を誇っていたエールデアース帝国の魔法学院に入学したが、特に学ぶことは何もなかった。しかし、私が『聖女』であることは秘密であり、『治癒師』の『称号』を持っていると偽っていたので、私の学院での評価は並であり、ほとんど目立たない存在であった。魔法に関しては・・・


 魔法では目立たない私だったが、愛嬌のある性格と派手な金髪ツイテールの髪型に、人を魅了する黄金の瞳を持つ私の微笑みは、男女問わずに魅力的であり神々しい存在であったらしい。毎日のようにラブレターが届き、告白もされ、高貴な身分な貴族からは多数の縁談の話をもらったが全て断ってきた。

 

 学院を卒業後も私をお嫁さんにするために、貴族の開催するお茶会に何度も誘われている。私の身分は、他国から移住してきたが『称号』を持っているので、貴族【最下層の騎士】である。『称号』を持っている者はこの国では『貴族』と認定され、逆に『称号』を持っていない者はどんなことがあっても『貴族』にはなれないのである。これは王族でも同じである。それほどこの国では『称号』は大事なのである。


 

 「今すぐにでも助けにいかないと私のように酷い目にあわされるわ」


 「わかっているわ。でも、相手は男爵家よ。昼間にいきなり押しかけては大問題に待ってしまうわ」


 「でも・・・でも・・・」



 ルティアは唇を噛み締めて怒りを抑えている。


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