私、LINEのアイコンが加工済み自撮りの男はアレだって言ったよね!



「コルト?」


「はい、そうです!皆さんのコルトをお伺いしておこうと思いまして!」


あくる日、冒険に出かける準備の為に街に買い出しに来た雄一達は、道すがら必要になりそうな物資を相談していた。


ガヤガヤと人で溢れる異世界の露天に陳列された数々の見慣れない品物に気を取られている雄一にシャロンが問いかけた。


「まだ3人では有りますけど、知らないと不便ですし、お互いを知る上でも、まずはそこからなのかなって思いまして!流石に同じパーティのメンバーのコルトを知らないのはまずいじゃないですか?」


「あぁーコルトですね、確かに、流石にパーティを組む以上はそうですよね!パーティメンバーのコルト位は知っておかないと…」




ここにきて雄一は一つ大きな問題を抱えていた




「ですよね!私、加入を認めて頂いた時に聞かれなかったので、もしかして本当は仲間に入れたく無いって思われてるのかなっておもっちゃって…思い切って聞いてみて良かったです!」


「いやぁーなんかすいません、余計な気を使わせてしまって…」




そう、雄一は【コルト】が何を指す言葉なのか1mmも知らなかった。




「いえいえ!では早速ですけど、雄一さんのコルトを教えて下さい!」


「あぁー俺のコルトですか…うーん、でもなぁ…ちょっと恥ずかしいと言うか、個人的には凄く大切にしてるって言うか…」




そして彼は【知らない事を知らない】と言う事に意味のない抵抗を感じる残念な大人だった。



「え?大切?恥ずかしい?」


「あぁーーーーーいやいやいや、そう言う側面もあると言うか、ほら、人によって価値観が違うから…なんて言うんですかね、【俺の場合はそう】的な、ははは…」


「そ、そうなんですか?すいません、私気が回らなくて…コルトを教え合うのが恥ずかしいなんて思った事一度も有りませんでした…」


「い、いや、全然恥ずかしく無いですよ!?全く恥ずかしくは無いんですけどね?ある意味センシティブな内容じゃ無いですか、そう言うのって!リテラシーが大切って言うか、リスクヘッジの面から考えてもイニシャルコストの面で考えても、簡単にアグリー出来ないと言うか…」



そして雄一はこう言う場面で取り敢えず横文字を連発して偏差値マウントを取ろうとするタイプだった。


「時にシャロン殿!コルトとは一体なんですかな?」


だらだらと嫌な汗をかく雄一の隣から伊藤さんがシャロンに問いかける。


【か、神っ……!!】


雄一は伊藤さんと出会ってから今に至るまでで初めて伊藤さんの存在に感謝した。


「ワタシまだまだこの世界に疎いところが御座いましてな!コルトと言う言葉にどうにも馴染みが有りません、差し支えなければ教えて頂けませんかな?」


「あぁ!失礼しました!コルトと言うのは、魂に刻まれたヒエログリフの文字列の事です!」


「はて?ヒエログリフ…」


「魂に刻印されたコルトは一人一人全く異なっていて、この世界ではそれがその人の魂にアクセスする鍵になっています!お互いのコルトを知っていると、離れた場所で会話出来たり、今見ている視界をイメージとして共有出来たりするんです!つまり、手紙より手軽で利便性の高い通信手段だと思って頂ければ…」


「おぉ成程!異世界のコミニュケーションツールと言う事ですな!」


「わかりやすく言うと向こうでのLINEみたいな物です!なんとなく分かりました?」



雄一はあくまで【俺知ってましたけどね?】と言うスタンスの固辞に拘った。



シャロンに懇切丁寧に指導を受けながらようやく互いのコルトを開示しあった3人は早速機能テストをしてみる事にした。


少し離れた場所で3人で会話をし、問題なく意志の疎通が出来る事を確認した後に合流しようとすると伊藤さんがキラキラした子供の様な表情で駆け寄ってきた。


「何という!何という利便性!まさに文明の利器にして全世界の距離を縮めかねない神器!!コルトとは素晴らしいテクノロジーですなっ!!」


「いやいや、伊藤さん、僕らの世界にもスマホとかLINEとかあったじゃないですか!そんなに興奮する事ですか?」


「それはそうなのですが、なにぶんワタシLINEと言う物を使った事が皆目無くてですな」


「え?LINE使ったこと無かったんですか?そんな馬鹿な…」


「勿論小生、スマートフォンを入手した際にはいの一番にアプリをダウンロードしたんですが、いざQRコードを交換しようと聞いてみるとワタシの身近な友人達は総じてLINEをやっていない様でしてな!結局使わずじまいとなっていたのですよ!あっはっはっ」


「え?」


「え?」


「LINE聞いたらやってないって言われたんですか?」


「いかにも、まぁ確かに誰も彼も必ずやっているとは限りませんからな!」


【やってるよ、誰も彼も漏れなく全員やってるよ…】



雄一は学生時代に一世一代の勇気を振り絞ってクラスの女子にインスタのアカウントを聞いた時の事を思い出した【あぁーごめん、ウチそーゆーの興味なくてやってないんだ…ごめんね!】と言ったその子のアカウントが友人の投稿にタグ付けされていた時と同じくらい、いたたまれなくて悲しいあの時の気持ち…


伊藤さんの純粋にキラキラと輝く笑顔が、いつまでも雄一の心に抜けない棘として残った。

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