MUNOU×PARTY



「あの、取り敢えずお名前を…」


「アルビリア・グリモワール・リアナ・ヴィンデロッド・コーデュアル・アイゼンベルク・ルチアーニャ・シャロンスタッドです!」


【来てしまったか…】


雄一は目頭を押さえて小さく俯いた。


【異世界転生系私小説の現地人の名前、往々にして長すぎる問題…】


なんだかよくわからんウチに仲間になった獣人の猫耳娘との冒険のブリーフィングを進めるべく、雄一と伊藤さんと獣人(仮)の3人は冒険者が集まるバーだかレストランだか、この手の世界観に必ず出てくる例のアレ的な場所に集まって食卓を囲んでいた。


【どうにしろ長すぎて1ミリも覚えられない…しかしなぁ…名前と言う物は個人の尊厳に大きく関わってるからなぁ…おいそれと良く分からないだの長いだのいって、せっかくパッティーメンバーに加わりたいと言ってくれている美少女を傷つけたくはないよな…】


「なんですかその訳がわからない長ったらしい名前は!ワタクシ全然覚えられませんでしたぞ!こりゃどうしようも有りませんなぁ麻生氏!」


「…………このハゲ」


「ん?何かもうされましたか?」


「いえ……、ええと、そうですね…確かに仲間として日頃呼び合うには貴方の名前は少々長いかもしれません、凄く素敵なお名前だとは思いますが…」


「あはは、私の出身地域の住民達は身分の高さに応じて名前が長くなるんです…日常生活中では不便なので、勿論フルネームで呼び合ったりはしません!基本的に愛称で呼び合っているので、どうぞ呼びやすい様に呼んで頂ければと思います!」


「そうでしたか!きっと高貴なご身分の方なんでしょうね!凄いなぁ…」


「平民です!」


「え?」


「平民です!両親は冒険者相手に小さな商店を営んでいます!」


「あ、そうすか…」


雄一は【貴族とか王族はどうなるんだよ…】と思ったが、それこそラノベのタイトルより長くなりそうだなと思い、考えるのを辞めた。


「……あぁーうん、じゃぁ早速愛称を決めましょうか…何かリクエストと言うか、こう呼んで欲しいと言う呼び名は有りますか?」


「私からは特に…どんな呼び名でも構いませんよ?」


「しのぶ!しのぶと言うのは如何ですかな麻生氏!」


「しのぶ?」


「そうです!我ながら中々呼びやすくて良い名前かと思うのですが!」


「あの、長い名前を取り敢えずしのぶと略すのはちょっと…金髪ロリ吸血鬼という偉大な前例も有りますし…そもそも何処をどう取ってしのぶなんですか…脈略が無さすぎますよ…」


「…?金髪ロリ吸血鬼のくだりはよくわかりませんが、ほら、この方の立派な猫耳!リボンに見えませんかな?まるで蝶々の羽の様ではございませんか!蟲柱の彼の方に瓜二つ…」


「あ、はい、全然ダメです…」


【そっちかよ…そっちもダメだよ…】


雄一は後でこのおっさんに著作権保護法を一から叩き込もうと決意した。


「取り敢えず伊藤さん、貴方は一回少年向け週刊マンガ雑誌基準で色々な事を、考えるの辞めて貰えませんか!?逐一突っ込むの疲れるんです!切実に!著作権問題もシビアな時代ですし!」


「関係ないと思いますが…異世界ですし、ここ…」


【て、天才かコイツ…】


そういえばココは異世界なのだ、偉大な先人達が日々頭を捻り、時に悩み、苦しみ、生み出した素晴らしい創作の数々はここにはそもそも存在しないのだ!


「あ、あの…」


雄一と伊藤さんのやりとりに申し訳なさそうに獣人美少女が口を挟む


「この先の冒険に役に立つかは分かりませんが、私はほんの少しだけ人の心を読む事が出来ます…凄くぼんやり、アバウトにですが…」


「アーニャですな!」

「アーニャにしましょう!」


雄一は初めて伊藤さんと同じ事を同じタイミングで口走った。


小首を傾げて2人を見ていた猫耳娘は、程よくアルコールが回って来たようで、小さくひゃっくりをした、その時の【うぃっ】と言う小さな声に雄一は【マジで持ってるなこの子】と思った。


どうせなら美人暗殺者とイケメンスパイも仲間にならないだろうか…

雄一は机の上のピーナッツを一つ摘み上げ、カリッと言う歯切れのいい音と共に噛み締める。


集◯社は舞浜の次にやばい、絶対にやばい…雄一は結局、根拠のないこの第六感に従う事にして、様々な大人の事情を鑑みて少女はシャロンと名付けられた。


隠して雄一のパーティーは三人となった。

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