もし転生するなら何になりたいか?親が金持ちの子供だろそんなの、



「こまりましたなぁ…」


「ええ、本当に…」


【お前が言うのか】と喉まででかかった言葉を飲み込んだ雄一と伊藤さんの2人はギルドで文字通りの門前払いを受け、本格的に行き倒れの可能性に怯え始めていた。


「しかし、お金が無いと言うのはこうも行動を制限される物なんですね…」


「やや、麻生氏は生前金銭に困った事がなかったのですかな?」


「まずその生前って言うの辞めてください、合ってるんですけど、間違ってないんですけどやめてください、悲しくなるので…

実は俺、公務員だったんですよ、市役所と言う場所で働いてまして、割と収入や労働環境は落ち着いていたんですよ。こっちで言うとそれこそギルドとか商工会とかと似ている感じなんですかね?ユグドラシルにも街がある以上、街の運営機関としての役所は有るのかな?わからないですけど…」


「おおぉ!公務員!夢の祝祭日完全休み!皆の憧れ9時5時勤務ではないですーーー」


「アンタ絶対に召喚前の記憶あるだろっ!」


「いやいや、それが、お恥ずかしながらさっぱり…ただ、断片的に思い出したりする事が有るのです、今の様に職種のお話しなどされました所で【自分も勤勉に仕事に勤しんでいたな】と言った具合に!」


「えぇ!凄い進展じゃないですか!そうやって徐々に記憶の解放を進めて行って、ゆくゆくは幻獣に恥じぬ呪文やスキルがアンロックされたりするんですかねっ!?」


雄一は期待に胸を膨らませた、本来記憶喪失のおっさんの職業経歴が分かろうが、何一つ期待や希望を抱く必要などないのだろうが、ここのところの余りに無慈悲な展開と突きつけられる残忍過ぎる現実に雄一のメンタルはややおかしくなっていた。


「所で伊藤さんはどんなお仕事をしてたんですか?」


「あぁ、私ですか、人様にお伝えする程の物では無いので恐縮ですが、警護と言いますか…警備系の仕事でした。」


「凄い!本格的に荒事にも慣れていそうじゃないですか!!どんな内容の警備をしていたんです?」


「自宅です」


「え?」


「主に自宅を警備しておりました!年老いた父と母を守る為、片時も家を空ける事なく…」


「あぁ…えぇと…そうっすかぁ…へぇー…」


「父と母も大変喜んでくれましてな!毎月給金まで頂いておりました!あまりに勤勉な私の姿勢に度々、感動していた様子で時折私を見つめながら目頭を抑えていましたよ!あっはっはっはっ!」


「…」


【こう言う時、人って突っ込めないもんなんだな…】雄一は心の底からどうでも良いと思う知識を得た。そして相対的に見て自分はまだ人として大丈夫だと感じた事に何処か哀愁を覚えた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「時に麻生氏、及ばずながら小生、少々金策に妙案が!」


「ごめんなさい、一つも期待してないんですけど…それでも良ければどうぞお話し下さい…」


「ギルドの入札形式のクエストに参加すると言うのは如何でしょうか?!ギルド主催の入札形式のクエストなら、依頼主の定める条件を気にする必要はありません!」


「それはそうかも知れませんが、そもそも何の実績もない我々にギルドが入札してくれる訳が…」


「そこで!お金ですよ麻生氏!まず、多少の元手を単純労働で作ります!」


「はい…」


「そしてその金をギルドの入札担当者側に予め渡しておく訳ですよ!」


「…」


ざわっ…


「すると、そのギルドの入札担当者は何一つ労せず懐を温める事が出来る!尚且つ我々もギルド直轄の大きな仕事で報酬を得られ、名前も売れると言う一石二鳥!」


「…」


ざわざわ…


「どうですかな!この余りにも知略に満ちた妙案は!転生前の記憶なんでしょうか…実は何処かの社長だか会長だったかがこの方法で見事に国営事業の受注を勝ち取ったと言う話を聞きましてな!確かカドカ…」


「おおぉぉぉぉい!!!黙れぇ!そしてそこに直れぇぇい!!!アンタ俺の作家生命を潰す気かぁぁぁぁぁぁ!!!良いですかぁ伊藤さん!その話は現在、物書きの世界においてタブー中のタブーです、貴方が今している事は舞浜でデフォルメしたネズミの絵をオリジナルだと言い張って販売するよりヤバい行為です!」


「あ、麻生氏、どうしたんですか急に取り乱して…」


「特にダメ!絶対にダメ!転生とか女神とか異世界とか!その手の世界観でやってくつもりなら圧倒的にダメ!草分けだから!全てはそこから始まってるから!」


「い、意味がわかりませんが…」


「とにかくその作戦は却下です、なんならこの話、曲がり間違ってPVが伸びるような事になったら削除しないと命まで危ない可能性が有ります!」


「はぁ…」


「大人しく労働しましょう!お金は額に汗して勝ち取ってこそ、意義があるはずです!」




【メタ系のネタって入れ込む時は勢いでバシバシ筆進むんだけど、後で見返した時に(うぁ…寒っ…)って思うんだよな…】なぜか雄一は執筆活動していた時の事を思い出した。

そしてとにかく職を探す事にした。

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