Re:携帯とポテチがあるだけゼロじゃない
「お金を稼ぎましょう」
雄一はおそらく生まれ落ちて現在に至るまでで1番真剣な表情で伊藤さんに提案をしていた。
「成程!流石麻生氏!何をしようにも先立つ物は必要ですからな!」
「問題は何をして収入を得るかですっ!」
「どうせなら一気に稼ぎたい所ですな…金策に時間を割いていては冒険どころではございませんぞ…」
「いや、この旅が冒険どころじゃないのは金策がどうとか以前の話なんですが…今回はまぁそこは置いておいて…このまま水とドングリと雑草しか食べれない野宿生活を続けていたらその内に死にます…断言します、俺が今まで聞き及んだ全てのファンタジー作品において、ここまで無様な死に方をしたキャラクターが登場する物はありません!」
「はっはっはっ!!しかも麻生氏は主人公ですしな!訳が分かりませんな!はっはっは!」
雄一は【アンタの存在の方がよっぽど訳が分からねぇわ】と言いたい気持ちを何とか堪えた。
「とにかく!ギルドです!ギルドでクエストを受注するのです!」
「ついに私の有用性を証明できる日が来てしまいましたか!楽しみですぞ!」
ギルドを目指す道すがら、雄一は期待に胸を膨らませていた、なにせギルドである、雄一が知る限りギルドには綺麗なおねぇさんが受付嬢として居るのが定石である。
雄一は異世界に転生して4日たち、ついに小太りの半裸のおっさんではなく女性と会える可能性がある事に胸を高鳴らせていた。
きっとエルフの様な容姿をしていて、やたらお節介焼きで、休日に装備を選ぶのに付き合ってくれたり、自分にだけこっそりG 級のクエストを受注させてくれたり、とんでもない爆乳でど貧乳だけど爆裂魔法が使える仲間とかドMの女剣士をメンバーとして紹介してくれたりするに違いない…
ーーー冒険者ギルドーーー
「ありませんね」
「え?」
「ありません!」
ゆるくウェーブが掛かった金髪!長すぎるまつ毛!尖った長耳!どうやって止まってるんだか分からない片方にだけレンズが有るメガネ!なんか緑を茶色を基調とした服!初夏の山、朝霧の中で感じる新緑の様な香り!
雄一が期待した冒険者ギルドの受付嬢として申し分無い女性がそこには立っていた。
「だから、ないんですよ、モンスター討伐経験なし、武器無し、防具なし、魔法無しの冒険者に斡旋できるクエストなんて!」
「そ、そこをなんとかなりませんか!?そもそもお金を稼がない事には武器も防具も…」
「畑でもたがやしてどうぞ」
「そ、それは農民になれと言う事でしょうか」
「そんな事知りませんよ!ここは浮浪者を救済するNPO法人じゃないんです!帰ってください!」
だがしかし、究極に塩対応だった。
「じ、実は俺、召喚術師なんです!神話級の幻獣を連れていますので、戦闘はその幻獣に…」
「はぁ、どちらに?」
「いや、ここに…」
指差した先で伊藤さんがニコニコとした表情で仁王立ちしている。
「おっさんじゃないですか」
「えぇ…、そうですね…、自分もそう思います…」
「二度とこないで下さい!自警団(バウンサー)呼びますよ!」
こうして雄一のギルドデビューは苦虫を噛み潰す様な物として終わってしまった。
トボトボとギルドを去る雄一に伊藤さんが声をかける。
「貴方様は召喚士ではなく麻生氏では…?」
【うるせぇ…チクショウ…】
ギルドに張り出してある依頼書が小さくはためいたのが風なのか雄一のため息のせいなのか、雄一にも分からなかった。
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