キャラの名前に【ら行】を入れろ、話はそれからだ



「いやぁ、これからよろしくお願いします!麻生氏!」


「…」


2人の男が街道を重い足取りを隠さず、スゴスゴと歩いていた。


男の名前は麻生雄一、異世界に転生して目的がよくわからんまま冒険する事になったしがない会社員。


隣を進むのはブリーフ一丁、小太り、中年の男、伊藤秀治、神話級装備【聖天子の白羽衣(ブリーフ)】を装備する幻獣で、雄一の最初にして唯一の仲間だった。


【うん、どうしようこれ】


雄一は酷く蝋梅していた、何せ右も左もわからん異世界に突然召喚され、女神から授けられたチートスキルは蓋を開けてみればブリーフのおっさんだったのだ…


「不幸だ…」


降って湧いたパートナーがブリーフのおっさんの異世界転生冒険譚とはなんなのか…10万3000冊の美少女魔導図書館がパートナーの彼とは不幸の重さが違う、絶対に異論は認めない。


「伊藤さん…」


「やや、なんですかな麻生氏!」


「ここに来る前、貴方何処で何をしていたんですか?」


「いやいや、これは失敬、私とした事が、身の上話もせぬままで、私が召喚される前のお話しに、つゆぞご興味が?」


「いや、無いです、申し訳ないぐらい少しも無いんですけど、本当に何処から手をつけたら良いのか分からないんで…教えておいてもらって良いですか?」


「はっはっはっ、麻生氏、気を落とされる事は有りません!この私が召喚された以上、大船に乗ったつもりていてくだされ!さて…私の召喚前の経歴でしたな…」


伊藤は大きく息を吸い込むと腰に両手を置いた、ちょうど仁王立ちの様な姿勢を勇ましく作り上げると、雄一の方にグルリと向き直りこう続けた


「わかりませんっ!」


中年の低く、艶があり、そしてよく通る声が街道に響いた


「いや、いらないんで、本当イケボとか出そうとしなくて良いんで…」


「はっはっは、恐縮ですっ!」


「褒めてないんだよなぁ…」


雄一は空よりもずっと遠く、果てしない先を見据える様な目で宙を仰ぐと、また少し泣いた。


「そもそもですね、無理があると思うんですよ!」


「いやぁ、流石ご聡明な麻生氏、お気付きでしたか!」


「ここ異世界なんですよ、異世界、知ってます?この世界ユグドラシルって言うらしんですけど…」


「はて…ユグドラシル…」


「北欧神話です、世界を支える大樹で、木に沿って7つの国があると言われています、神様が住むヴァルハラとか、ニルブヘイムとか…」


「ほほう、博識ですなっ!」


「いや、それはマジで今どうでも良いんですけど、そんな厨二全開ネームの異世界な訳なんですよ、今僕らが居るのは!なのに…」


伊藤さんが怪訝そうな面持ちで雄一を見つめる。


そんな目で俺を見ないでくれ…むしろどんな目でも見ないでくれ…雄一はそう思った。


「よし改名しましょう…」


「改名…ですと…」


「そうです!私は麻生雄一、貴方は伊藤秀治………ナニコレ?どう言う事?舐めてんの?ん?ユグドラシル()を旅する冒険者の名前としてどうなのコレ、生前の影響色濃く残しすぎだろ!大体他の異世界転生小説のキャラクター達の名前はなんなんだよ!かっこよすぎだろ!語感いい名前しか居なさすぎるだろっ!!名前に【ラ行】入りすぎだろっ!呪いか!?呪縛の類か!?本名がカッコいい事が転生の条件にでもなってんすかっ?」


「お、落ち着いてくだされ麻生氏、私にはどう言う意味かさっぱり…」


「ダサいんすよ!ダサすぎる!想像してください!リーマンの麻生雄一とおっさんの伊藤秀治の旅ですよ?1ミリも異世界感ないじゃないですか!こんなんじゃクソッタレな幻想なんてぶち壊せないし、成り上がれないし、鬼がかれないですよ!」


「麻生氏、最近はほら、ネトゲ世界から帰れなくなった至高の御方とか、飾らない系のネーミングを使う作品も多いですから!」


伊藤さんが突然キリっとした顔と声で相槌を入れる


「ありゃプレイヤーの名前だけでしょうがぁぁぁぁぁぁ!!!殆ど出てこないし、出てくるキャラクターの名前は皆格好いいでしょうがぁぁぁぁぁ!!!」


「不詳、私もいつか第七異界の魔法を使える男に…」


「なれるかボゲェ!」


雄一はぜぇぜぇと肩で息をしながらツッコミを入れた。

その時何故か頭の中で誰かが【Hey Japanese people!オカシイダロゥ!?】と叫んだ気がした…

【絶妙に古いよ…】

雄一は頭の中の声に頭の中でツッコミを入れ、そしてまた悲しくなった。

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