1mmもファンタスティックじゃないビースト




「何処だ…ここは…」


雄一が目を覚ますと頭上には大きな大木が枝を広げていた。

眼前に広がる見渡す限りの草原は風にその草々をゆらし、まるで鮮やかな緑色の海の様に見える。


ーーーここはユグドラシル、雄一、あなたがこれから旅をする世界ですーーー


「え?」


ーーーえ?ーーー


「シリウスさんですか?」


ーーーはい、私は女神シリウスですーーー


「転生してからもチュートリアルの人が干渉してくる感じのゲームですかこれは…」


ーーこれから険しくも心躍る旅をする貴方の為に、私から一つ、贈り物が有りますーーー


「どうしよう、本当話聞かないよこの人、もうなんか病気だよ、そう言う病気としか思えないよ…」


ーーー貴方がこの先の冒険に必要だと思う能力を一つ、選択して下さい、女神の加護として貴方にそれを送りましょうーーー


「能力…スキルって事か…」


雄一は女神が話を聞かない事を早々に諦め、取り敢えず貰えるものなら貰っておこうと建設的な思考に切り替える事にした。


【うーん、俺の脳内から異世界的なセオリーを選ぶならやっぱり黒のロングコートと二刀流装備だ…成長する盾とかも捨てがたい…いやいや、死んだ時にオートセーブされた箇所からやり直せる能力と言う手も…でもなぁ…アレなんかしんどそうだしな…同じ理由で記憶を持ったままタイムリープするアレもダメだ…後は少し前にスマートフォンなんてのもあったな…最近のトレンドを抑えるなら生産系のジョブスキルとか】


せっかくのご好意に甘える事にした雄一は何か役に立ちそうな能力を必死に思案した。


「そうだな、じゃぁ痛いのは嫌だから防御力に極振りした…」


ーーー承知しました、では貴方とこの先を共に歩む幻獣を授けましょうーーー


「得体の知れない宗教法人の勧誘を受けている人は、こんな気持ちなのだろうか…」


女神は雄一の言葉を遮ると、右手から野球のボール程度のサイズで蛍光緑色に輝く球体を出現させ、おもむろに手についた汚物を振り払うかの如く【ソレ】を地面へと投げつけた。


ベチョッと嫌な音がして地面に叩きつけられたその物質は【グチョ】【ニチャァ】【ベチョ】【ジュル】【クチャ】と、おおよそ本能的に人間が嫌悪しそうな擬音を立てながらアメーバの様に上下左右に伸縮を繰り返し、少しずつ大きくなるとやがて光に包まれた。


「え?ちょ、これ何?俺まさかこの方法で転生させられたの?ねぇ!ちょっと!嫌すぎるんですけど!何これ!キモいよ!控えめに言ってキモすぎるよ!」


ーーーちょっと何を言ってるのかわかりませんが、さぁ雄一、幻獣が誕生しますよ!ーーー


強い光が収束する様に形を作る。


「これは…人型…?」


流れる様なサラサラとしたロングヘア


出るところが出て、締まる所がしまった美しい曲線を描くボディライン


光とあいまって神々しいそのシルエットは、もはや彫刻や絵画を思わせる美しさを呈していた。


やがてその光は発光を終え、人形のそれは片方の腕を地に着け、立膝を着く様な…まるで王に謁見する騎士かの様な姿勢で留まった。


「おい」


ーーーはい、なんでしょうか?ーーー


「おっさんじゃねぇか」


ーーー伊藤さんですーーー


「伊藤さんですじゃねぇよ!これの何処が幻獣なんだよ!しかもなんだあのシルエット詐欺は!数秒前まで完全に美少女だったろあの光の中身!どうしたら全裸待機中のおっさんに変わるんだよあそこからっ!」


ーーー全裸では有りません、聖天使の白羽衣と言う神話級の装備を…ーーー


「よーし、よしよし、教えてやろう!聖天使の白羽衣?アレはな、ブリーフと言うんだ、ブリーフ、そもそも白いブリーフとか昨今絶滅危惧種なんだよ!久しく見たことねぇわ!場末の商店街でしか買えなさそうな神話級装備なぞあるかっ!」


ーーーさあ雄一、これで貴方の旅の準備は整いました、恐ることは何一つ有りません、この広大な世界で様々な冒険が貴方を待っています!ーーー


【ま、まとめ始めた…この女神、おっさんなすりつけて話をまとめ始めた…】


「誰か…誰か悪い夢だと言ってくれ…」


女神から神話級装備を携えた幻獣を与えられた雄一は力なく膝から崩れ落ちた。

なんかこの姿勢おっさんが出てきた時と被るな…つーか、ター◯ネーターじゃん…、アーノ◯ド・シュ◯ルツ◯ッガーじゃん…

冷静にそんな事を考えている自分を呪いながら流れ出た雄一の涙は、草原を波立たせる風にさらわれてどこまでも飛んで行った。

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