第20話 お嬢様の秘密編(6)

 その日の放課後、麗美香は再びクッキーを焼いた。


 優への御礼も兼ねてである。優が尾行しなければ、謎は謎のままだった。今回ばかりは感謝する他無い。


 優は偏食しているが、このクッキーぐらいは食べるだろう。少女漫画やシンデレラストーリーでは、料理上手なヒロインの料理が、イケメンヒーローの胃袋を掴むという描写があるわけだが、相変わらず麗美香の作った料理は残される事が多いし、そんな夢物語は現実に起こりそうもない。


 とはいえ、クッキーの出来は満足だ。紅茶セット一式と出来立てでまだ熱いクッキーをお盆に乗せ、リビングに持っていった。


 そこにはすでに優と豊がいて、テレビの「名探偵クリスティ!」の再放送をだらけた様子で見ていた。


 しかしクッキーの匂いに誘われ、麗美香の方を見てくる。やっぱり出来立てのクッキーの香りは別格なようである。


「さあ。豊さん、坊ちゃん。お茶の用意が出来ましたよ」


 麗美香は笑って言った。


 こうして三人でお茶を飲みながら、今回の謎の顛末について話す。


「うわぁ。星川アリスって子、本当に性格悪いな」


 麗美香の話を聞くと、優はどん引きしていた。やっぱり星川アリスの事を思うと、優の性格は悪くない思えてならない。


「それにしても、そんな事言うヤツもっと吹っかけてもよかったんじゃ無い?」

「坊ちゃんの言う通りですよ。朝比奈さんは案外甘いですねぇ」


 優も豊も最終的に麗美香がとった行動は甘いんじゃないかと憤っている。


「いいのよ、別に」

「そっかなぁ」


 優は本当に納得がいかないようで渋い顔をしている。


「でも、あんまり厳しく言うのもね。途中で星川さんって可哀想な人だなぁって同情し始めちゃったのよね」


 周囲の誤解を否定出来ず、期待を背負わされるなんてちょっと可哀想だった。リア充ならではの悩みかもしれない。一方陰キャは全く期待されていないので、そういったプレッシャーにあう事はないので気が楽だ。


 それを説明すると、優は深く頷いていた。


「わかるよ、その気持ちは。僕もこんなバカなヤツだとは思わなかったってよく言われるもん」

「いや、坊ちゃんはもう少し勉強しましょうよ」

「そうよ。あなたはbe動詞もわからないのは、さすがにヤバいわよ?」


 豊と麗美香がツッコミを入れると、優は花が咲くように笑っていた。


 クッキーの甘い香りと紅茶の匂いのせいで、余計にこの場所がゆるい空気に変わっていく。


 テレビの中の「名探偵クリスティ!」の主人公が、「謎は全て解けた!」とドヤ顔で叫んでいた。こうして見ると優に似てなくもないと麗美香はしみじみと思った。

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