第14話 桜の香りの謎編(9)
その数日後、隼人と凛花が一ノ瀬家の屋敷にそろってやってきた。
麗美香も優も豊も激安スーパーの無香料シャンプーに切り替え、柔軟剤も使うのをやめた。確かに何の匂いもしないシャンプーは味気ないし、洗濯ものも仕上がりが硬くなった気がするが、健康を害してまでいい香りのシャンプーや柔らかな洗濯物を得たい気分にはなれなかった。
「このたびはお騒がせしました」
隼人は、地元のオランダ屋というお菓子屋で買ってきたというケーキをみんなに振るまった。
「わあ、美味しそう!」
優が一番はしゃぎながら、ケーキをがっついていた。いつもは広くてがらんとしている一ノ瀬家のリビングも若者4人の笑い声で華やかな雰囲気に変わる。
隼人ももう柔軟剤は使っていないのか、何の匂いもしなかった。凛花安心して隼人にくっついている。
「もう本当に柔軟剤とか要らないよね!」
凛花はニコニコと笑ってケーキを口に運ぶ。
麗美香の推理通り、やっぱり凛花は化学物質過敏症だった。今は主治医を探している段階だが、化学物質を限りなく避けた生活で、どうにか健康を保っている状態なのだと言う。
「それにしても、そういう症状があるのならちゃんと言えよな〜」
謎は解決したわけだが優は唇を尖らせる。
「そうだよ、凛花。何で言ってくれなかったわけ?」
隼人もちょっと不満そうに呟いた。
「だってメイクも出来ないし、引かれたり、嫌われると思ったんだもん」
そういう凛花の気持ちは麗美香はちょっとわかる。女心というやつだろう。凛花がSNSで「名探偵クリスティ!」にハマっていると言っていたのも、同じような理由からだろう。
「メイクなんてどうでもいいよ」
そういう隼人はちょっとかっこよく見えた。麗美香は苦笑しながら、紅茶を口にする。
自分は容姿や見た目を気にしすぎていたのかも知れない。自分がブスだから、世の中容姿が全てと偏った考えに陥っていた。まあ、今の自分に容姿なんて関係ないと言ってくれる存在が現れる可能性は低いが、自分の中に差別的な偏見がこびりついていたのは否定できなかった。
「まあ、隼人と凛花は仲がいいならそれで良かったよ!」
優は仲良さそうに微笑む二人を横目に ニコニコと微笑んだ。
めでたく小さな日常の謎が解けたわけだが、優に何かスイッチを入れてしまったらしい。
探偵になりたい!と大騒ぎし、麗美香をとても困らせた。宿題にも手をつけず「名探偵クリスティ!」を読み耽っていた。
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