第15話 お嬢様の秘密編(1)

一ノ瀬家のバイトもだいぶ慣れた。優は相変わらずおバカだし、「探偵になりたい!」と騒いでいるが、豊は優しいし職場環境自体は悪くない。むしろ恵まれていると言っていい。


 クラスメイトにもこの事はバレていなかった。同じ学校とはいえ、優とは学年が違うし、陰キャとリア充という差もある。麗美香は学校では一度も優と接触した事がなかった。廊下ですれ違ったことが一回あったが、お互い無視した。こうしてみると同じ秘密を抱えたもの同士、共犯めいた感覚も覚えるが、別に優と仲が深くなる事はなかった。


 隼人と凛花の件ではからずも優と一緒にいる時間も増えたわけだが、だからといって友達になれるような雰囲気はなかった。麗美香にとって優は、あくまでもバイト先の「坊ちゃん」だった。


 そんなある日、新学期になってすぐ行われた学力テストの順位が発表された。


 麗美香が学年一位だった。


「あの陰キャは成績良かったの?」

「人は見かけによらないんだなぁ」


 クラスメイト達の反応は、麗美香の予想通りだったが舌打ちしたくなる。


 成績がよくてもこの容姿のお陰で、あまり褒められない。それどころがガリ勉クラスメイトに嫉妬され「ブス!」とはっきりと言われた。


 ちょうど弁当を食べ終えて、聡美と一緒に教室に帰ってきた所だったが。


 クラスメイト達は遠巻きに眺めながらニヤニヤと笑っている。せっかく良い成績をとったのに、容姿がマズいせいでこんな仕打ちにあうとは。


 理不尽だが、ここでは言いたい事はハッキリと言ってやろう。


「は? 私がブスであんたに迷惑かけた? そんな事言う暇あったら、英単語の一つでも覚えたら?」


 麗美香は隠キャだが、決してメンタルは弱くなかった。むしろ逆である。こんな風に理不尽なことを言われたら、つかさず言い返す事に決めている。


 あまりにも麗美香が毅然として言い返したので教室のクラスメイトたちは息を呑む。


「あいつ陰キャのくせに言うよな…」

「性格も悪いなんて…」


 悪口も聞こえてきたがこれで良い。甘い顔を見せていじめに発展するのは避けたい。


 いじめっ子連中は、妙に鼻が効く。いじめても言い返さなような人を選んでいじめているのだ。だから、こうして自分は理不尽な事は言い返す人間だという事は認知させておく必要はある。我慢して泣いていれば幸せになれるなんてシンデレラストーリーのヒロインだけだ。実際は言いたい事ばかり言っている声の大きい人間ばかりが得している。都合よく自分を溺愛してくれる王子様なんていないし、自分の事は自分で守らなければならない。


「あはは、すごーい。朝比奈さんって強いのね」


 ちょうどそこに星川アリスが明るい声をあげて、麗美香に近づいてきた。


 聡美はこの騒ぎに巻き込まれたくないようで、そそくさと自分の席に戻っていたが。


「そうですかね?」


 麗美香は星川アリスを軽く睨むように言う。リア充集団の中心点存在のお嬢様だ。


 あからさまに陰キャを悪く言う事はないが、ハーフ美女で、存在感がある。成績も普通だったはずだが、いいところのお嬢様のようで、 時々金持ちである事を鼻にかける発言が多く嫌味ったらしい女である。クラスメイト達からは人気があるようだったが、麗美香は好きではない。


 よりによって今は席も隣同士で、顔を合わせる機会も多いのが問題だった。


「そんな警戒心持たないでよ。私、朝比奈さんとお友達になりたいな」


 は?


 麗美香は星川アリスのその発言に顎が外れるほど驚いた。


 そんな麗美香を無視してアメリカ人とのハーフだという整った顔で星川アリスは笑っていた。


 おかしい!


 リア充がなぜ隠キャにこんな発言を?


 麗美香の前に新しい謎が生まれてしまった。

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