第9話 桜の香りの謎編(4)
麗美香は、放課後町の公立図書館へいきお菓子のレシピを色々調べてメモをとった。
調べると優の母である立花綾香は料理好きとしても有名のようだった。何とレシピブックも発売していて、図書館にもあった。
こう言った芸能人の本は、名前だけでほとんど本人が関わっていないと聞くが、彼女のレシピ本をのぞくと、「息子や息子の友達も喜んでくれた!」というコメントも付いている。レシピはプロが作っている可能性は高いが、そのコメントは嘘でがなさそうだ。とりあえず、明日はこのレシピ通りにクッキーを焼いてもいいだろう。
優の母である立場綾香は、長年B級タレントとして低迷していて、ママタレとしても炎上を繰り返しているようだった。
スマートフォンでこの本のレビューや感想を調べると、酷評だらけだった。しかし、これ以上に参考になるレシピ本はない。
何となくこの本をあの屋敷に持ち込むのは、違和感があり借りなかったが、麗美香は十分参考になったと満足し、激安スーパーで材料をそろえ、100均でクッキー型やクッキングシートなどを購入し、一ノ瀬家の屋敷に戻った。
翌日、麗美香はクッキー作りに取り掛かっていた。立花綾香の味に近づけるかは謎ではあるが、とりあえずあのレシピ通りに作ってみた。クッキー型はハートやクマ、星など色々と買い込んだので、見た目はちょっと華やかになった。
「豊さん、一枚味見してくれますか?」
麗美香は執事室へ行き、豊に味見を頼んだ。
「おぉ、これは。綾香さんの味に近いかもしれません」
豊がクッキーを食べ終えると、関心したように麗美香を褒めた。とりあえず一安心でがあるが、立花綾香が仕事とはいえ、息子を一人この屋敷に置いているのは気になった。
「坊ちゃんのママって何してるんでしょうか?」
優はお馬鹿だが、あの歳で複雑な事情はある。そう思うと、一方的に憎む気持ちはなくなる。まあ、色々と恵まれているのも事実なので腹はたつが。
「ああ、綾香さんはかなりマイペース、いえ、独特なお方で。ママタレでいるのに飽きて、本格女優を目指してアメリカで修行中…」
綾香の事情を話す豊の顔はずっと渋い。この様子だとネットで炎上して叩かれているのも、あながち全てが間違いでは無いのかもしれない。
「まあ、綾香さんは坊ちゃんをとても溺愛していますから、坊ちゃんとの仲は良いですよ」
「そうですか」
仲が良いと聞いてホッとする。まあ、本当に仲が悪かったら、麗美香にこんな料理をリクエストする事は無いだろう。
「坊ちゃんにもこのクッキー味見して貰ったらどうですか?」
「そうね。坊ちゃんはどこのにいるのかしら」
「二階だと思いますよ」
豊に言われ、麗美香は二階に向かう。この屋敷は広くて立派であるが、その分、移動に時間がかかる。階段も角度が急だし、実用性は低すぎる。こちらの掃除は豊の仕事とはいえ、あまり住みたいとは思えなくなった。若者はともかく、バリアフリーでも無いので老人は住むのの向いていないだろう。
「坊ちゃん、います?」
勉強部屋、優の部屋をノックしたがいない。他に使われていない部屋がいくつかあるが、ちょっとしたシェハウスぐらいできそうにある。貧乏人の麗美香はもったいないと思うが、金持ちの考えてもいる事はさっぱりわからない。
空いている部屋をひと通りノックし一番奥にある使われていない部屋の扉をノックした。
「おぉ、麗美香ちゃんじゃないか!」
出てきた優はいつもより雰囲気が違った。
黒縁のメガネをかけ、髪型もわざとらそく七三わけにしていた。
「こも部屋で何してたわけ?」
優の肩越しに部屋を覗くと、本棚が見えた。あのお馬鹿な坊ちゃんが読書なんてするのだろうか?
何か隠している。違和感がある。
「まあ、良いわ。このクッキー作って見たんだけ近く、味見してくれる?」
「良いよ!」
優は微笑んで、麗美香がもっいる皿からクッキーをとり、もぐもぐと食べていた。
「意外と美味しい」
微妙な感想をもらったが、この事で優の気も緩んだらしい。この部屋の中を案内してくれた。
「は? 何この部屋…」
きの部屋は本棚がたくさんあったが、どれもミステリーの小説や漫画ばかり詰め込まれていた。アガサ・クリスティの作品やホームズなど麗美香が知っているものはもちろん、人気漫画「名探偵クリスティ!」も全巻揃っていた。
この作品はアガサクリスティの幽霊が、冴えない小学生の憑依するという荒唐無稽なミステリであるが、テレビアニメ化され、毎年公開される映画はとても人気だ。主人公のルックスは、黒縁メガネで冴えない七三わけだが、クリスティの幽霊に助けられて推理する様は大人もギャフンと言ってスカッとする。麗美香はよく見た事はないが、今の優の格好は「名探偵クリスティ!」に主人公のコスプレのようである。
実際、優は「名探偵クリスティ!」がいかに素晴らしいか熱っぽく語っている。この漫画がきっかけでミステリに興味を持ち、部屋がこんな風になってしまったという。
「あーあ、僕も事件を解決したいない。探偵になりたいよ!」
夢まで語っている。
麗美香は、冷めるばかりだった。推理マニアというのは、ちょっとそこらのイケメンにはない要素で、印象は良くはなったが、あんな学校の勉強ができなくて探偵業など出来るのだろうか?
「坊ちゃん、探偵にも勉強は必要よ」
「えぇ、勉強嫌い!」
口を尖らせる優をみて、逆にこれはチャンスかもしれないと思い立つ。
「『名探偵クリスティ!』での本当は英語ができないアメリカ人が犯人っていうのがあったじゃない? 主人公が、英語を使って犯人がボロを出す回覚えてない?」
麗美香は別に「名探偵クリスティ!」には詳しくないが、このエピソードは有名でネットで話題になっているのを見たことがある。
「確かに。そんな話もあったな」
「昨日の英語の宿題はしました? 坊ちゃん!」
「いえ、まだ…」
「さあ、宿題やりましょう。探偵業にも役立つかもしれませんよ」
「それはヤバいな!」
優は血相を変えて宿題をしに勉強部屋の方に向かってしまった。
一人残された麗美香は、部屋の本をまじまじと眺める。確かにここまで集めているのは、よっぽどミステリーが好きな事はわかる。あまり日本で人気のない翻訳コージーミステリまで置いてある。
自分には全くわからない趣味でがあるが、中身がスカスカな馬鹿なイケメンというわけでは無いようである。
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