第10話 桜の香りの謎編(5)
昼過ぎ、優の友達という宮川隼人という男がやってきた。
しばらく二人は本邸の一階のリビングで盛り上がっていた。
麗美香の存在は、隠すのかと思ったが、事情がよく知っている親友という事で、そんな事はなかった。
代わりに麗美香はお茶を作ったり、クッキーを持っていったり、給仕をさせられた。「土曜日なのに!」と麗美香は、思ったが、再び豊にその分の時給を出すと言われて従うしか無さそうであった。ちなみに優は趣味のアプリ内のゲームに熱中。見た目はおじさんであるが、趣味はちょっと若々しかった。
「朝比奈さんだっけ? このクッキーすごいうまいよ。ちょっとウチらと話さない?」
おのおかわりを持っていったら、隼人に同席するように言われた。隠キャの麗美香はこのような場にいるのは、嫌であるが、隼人には隠キャっぽさを感じて同意した。優もニコニコと「みんなで食べる方が美味しいよな!」と言っている。
「そうだな、優。みんなで食べた方がいいね」
隼人は苦笑してクッキーをかじる。
麗美香は、二人のちょっとが慣れたひとりがけの椅子に座る。確かに隼人は分厚いメガネをかけて、猫背で黒髪という隠キャらしさを感じるが、あの優と友だとなのだ。優自身は麗美香の容姿を悪く言う事は無いが、仲間がそうとは限らない。
とりあえずちょっと離れて観察しながら様子を伺うことのした。リア充には信じられない事だろうが、隠キャはこうして「傷つけるヤツかどうか?」をいちいち調べならない。
「失礼だけど、二人って雰囲気がちょっと違うね。どうして仲良くなったの?」
本当に失礼だとは思ったが、麗美香は思い切って聞いてみた。
二人はお互い目を見合わせて苦笑する。
「俺ら、『名探偵クリスティ!』にファンなんだよ。それで仲良くなったんだ」
「優くんが引っ越してしまってから、あんまり会えないけどね」
なるほど。そういう事か。
しかし、こんな陰キャっぽい隼人と仲良くできる優は逆にいい人なのか?
麗美香はクッキーを齧りながら考えを巡らせる。
そんな麗美香を馬鹿にするように庭にいるメジロが鳴いていた。
しかし陰キャが陰キャどうしで固まっていると「キモい」と言われるのに、イケメンが隠キャといるといい人っぽく見えるのは、なぜだろうか。それだけで容姿の良い人間は得するのだから理不尽だと思うが、生まれついた顔を嘆いても仕方ない。
「あーあ、僕も『名探偵クリスティ!』みたいに謎を解決したいよ!」
ちょっと退屈し始めた優はキャッキャと騒ぎ始めた。聞くと二人は、子供の頃の少年探偵団も結成していたようだ。
「まあ、もう一人凛花っていう子もこの探偵団にいたんだけどね」
優は懐かしそに説明する。凛花というと、女の子の名前だろう。まあ、見るからにリア充の優は、子供の頃から女性に囲まれていたのは想像がつく。
「そういえば隼人、凛花は元気?っていうか凛花と付き合っているって聞いてめっちゃ驚いたよ」
「え? 隼人くんって彼女いるんだ?」
麗美香は、びっくりして隼人に聞く。まさこの隠キャっぽい男にも彼女が?なぜか麗美香は裏切られたような気分にもなった。
「ええ、お恥ずかしながら去年の冬から凛花と付き合っています」
最初は嘘かと思ったが、凛花の話をする隼人の表情がちょっと柔らかくなる。勝手に隼人を隠キャだと決めつけて悪い気分になった。この柔らかな表情は優しそうではあるし、色々事情がありそうな優と仲良くできる器はあるのだろうと思う。
「凛花とどう?」
優は無邪気の二人の事を聞いていたが、突然隼人の表情が曇り始めた。
「え? どうしたわけ? 仲良しだったじゃん!」
優もビックリして、ちょっとのけぞっていた。イケメンで存在自体が派手なせいかリアクションもやや大袈裟に見える。普通にしていても「無愛想なブス!」と言われてしまう麗美香にとっては、実に羨ましい限り。自分の言いたい事が伝わりやすいルックスは、普通にしていても誤解される麗美香には無いものだった。
「それが、今年の春頃から急に避けられ始めて」
隼人はしゅんと落ち込んでいた。
「えー? なんで? 隼人浮気でもした?」
「とんでもない! そんな事するもんか」
浮気疑惑をかけられて隼人は怒っていた。やっぱり隼人は根は真面目のようである。
「だったら気を触る事言ったんだろう。隼人さ、太ったとか言ったんじゃない?」
優は隼人と違って、何か面白がっている。
「これは謎だな。うん、これは俺のような名探偵が解かなければ」
「ちょっと坊ちゃん。あなた、いつから探偵になったのよ」
麗美香はつかさず突っ込む。
「そこに謎がある限り、僕は探偵さ!」
優はビシッとカッコつけていたが、この台詞は『名探偵クリスティ!』の名台詞だ。二番煎じというかパクリで麗美香は苦笑する他ない。
「その凛花さんっていう彼女に何か変わった事は?」
麗美香が聞く。
自分は探偵みたいな事をするわけでは無いが、麗美香もちょっと気になる。二人の話を総合すると、仲の良いカップルだったようである。そんなカップルの片割れが急に避けるとはどういう理由があるのだろうか。
勉強なら答えが決まっている。たまに現代文では、複数な解釈が出来る事もあるが、たいては答えは一つ。勉強は好きだったが、あらかじめ決まった答えを見つける作業も飽き飽きしていたのも事実だった。答えが決まっていない謎を考えるのも悪く無いかもしれない。
「そうだなぁ。最近、凛花は化粧や服装が地味になった」
「化粧?」
優が食いつく。
「でもそんな変わったと言える感じでもないかなぁ」
隼人は顎に手を当てて首を傾ける。
「まあ、派手になったら浮気の可能性があるけど、地味になったんなら、問題なくね?」
優は笑っていたが、麗美香は何か釈然としない。
そんな麗美香の鼻にいい香りが鼻をくすぐった。桜のような、何かの花の匂い。いくらこの屋敷の庭が桜が満開だからと言って、この部屋まで香りが届くだろうか。
「あれ、隼人ちょっといい匂いしない?」
優もこの匂いに気づいてた。しかも、その原因が隼人である事も。見かけによらず観察眼はあるのか?この場合は観察眼というより観察鼻であるわけだが、やっぱりミステリーマニアだけはあると思わされる。
「あ、これ柔軟剤のおかげだと思うよ」
「隼人、柔軟剤なんてこだわってるの?」
「いや、母がドラックストアのおまけで貰ってきたみたい。普段はそんなの使わないよ」
「それっていつから?」
ちょと気になって麗美香が聞く。
「1ヶ月前ぐらいかなぁ。春が始まってすぐぐらいの頃」
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