第2話 芋臭女子のバイト探し編(1)

 必死に探した住み込みのバイトは、あるお屋敷のメイドの仕事だった。時給は最低賃金ではあるが、衣食住つきである。悪い条件では無い。


 履歴書の入った鞄を右手に持った麗美香は、その屋敷の大きさに圧倒される。


 二階建てであるが、どっしりとしたレンガ作りの外観で、正面のホールにあるステンドグラスは大正ロマンも連想させる。


 もともとドイツ人外交官のお屋敷という噂を聞いたが、真意は不明。ただ、明らかに金持ちの家だとはわかる。


 このお屋敷は、麗美香と母が住んでいたボロアパートがある同じ町内にありながら謎が多い。


 そういえば「ちびまるこちゃん 」も金持ちキャラの花輪くんの家も、庶民のまるこが住む町内にある。金持ちは庶民派でも気取りたいのだろうか。どちらといえば貧乏人の麗美香は、金持ちが考えている事などさっぱりわからない。


「でも庭は綺麗ね…」


 思わず麗美香の口元から、そんな呟きが溢れる。


 2年前から突然流行し始めたコロナの影響で高校でもマスクが強制になっているので、麗美香もマスクをしている。そのおかげで少々呟きが漏れてもバレないだろう。


 庭は屋敷を囲むようにあり、西側は川が流れている。正直あまり綺麗な川では無く、時々ボランティアが清掃し、魚の稚魚を育てる活動もあるようだ。


 よく見るとドブ川ほど汚くは無いが、「川を綺麗に!」「環境を守りましょう!」などの大きな看板のせいで、特別問題がある川にも見えてしまう。ただ、川のそばにある屋敷の周りに植えられた桜の木がある。そのピンク色の鮮やかな花びらは目に優しく見えた。


「この屋敷の住人は謎なのよね…」


 麗美香の呟きがまた漏れる。同じ町内にありながら、その存在は謎。表札にある「一ノ瀬」という名前以外がわからない。


 今更ながら、ここの求人の応募した事を後悔し始めたが、逃げるわけにはいかない。


 麗美香は、門のそばにあるインターフォンを押した。すぐに優しそうな中年男性が応対してきた。


 歳は五十代半ばぐらいだが、背筋が伸び、顔も「美男子」と言える部類だった。若い頃はモテただろう。「イケオヤジ!」と思ってしまうが、声に出すわけは行かない。


 住み込みのバイトを応募してきた朝比奈麗美香である事を説明し、挨拶をする。


 イケオヤジは、制服姿の麗美香をチラリと見ると、優しく微笑んだ。


「待っておりましたよ、朝比奈さん。では、離れで面接をいたしましょう」

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