イケメン探偵〜桜のような王子様と模範解答のない謎〜

地野千塩

第1話 プロローグ

 親戚のアラサー女が事件に巻き込まれて殺された。


 普通だったら遺族として同情されるかもしれないが、世間の反応は全く逆だった。それは麗美香の想像をはるかに超えていた。


 親戚のアラサー女は朝比奈佳世という名前だ。小説家としても活躍していたが、朝比奈家の血を色濃く反映した芋臭い女であり、性格も悪い。


 親戚の麗美香も佳世には嫌味をよく言われていたのを思い出す。殺されたと聞いても全く悲しい気持ちにはなれなかった。


 佳世は、高校で一緒だった同級生達を脅し続け、恨みを買って殺されたという。犯人の女は小説を書く才能があったため、彼女を脅してゴーストライターもさせていたらしい。それで佳世は作家として少なからず人気も得ていた。


 世間では、脅しの末に殺された朝比奈佳世の小説は絶版になり、ネットでは大炎上。犯人に同情の声があがるほどだった。


 麗美香は、佳世のことは嫌いだったので、正直「ザマァ」と思っていた。世間を騒がすコロナの影響で佳世の葬式にもろくに出席出来なかった事も大きいかも知れないが。


 佳世の死から一年以上たっていたが、炎上の火種はくすぶり、その余波は思わぬところに及んだ。麗美香の母が仕事を辞めてきた。


 長年小さな会社で経理事務をやっていたが、佳代の事が噂になり、居心地悪くなったのだと言う。


 まあ、もともと会社ではお局化し嫌われていた母は、こういう時味方ないであろう事は想像がついたが、現実的な問題が麗美香の頭を駆け巡る。


 麗美香に父はいない。母がこの家の大黒柱だった。麗美香は、高校生であるしアルバイトの稼ぎ手などたかが知れている。その上、母は実家がある田舎戻ってしばらくのんびりとしたいとも言い始めた。


 困った。


 母以上に麗美香が頭を抱えていた。


 麗美香は、母の実家がある田舎には行きたくなかった。祖父母は熱心なカルト信者で、麗美香にも変なお札やお経を持つことを強制してくる。


 そもそもあの田舎の周辺は、ろくな進学校がない。成績優秀の特待生として今の進学校の通ってる自分の立場とは一体…。


 佳世の事を逆恨みしたくなるが、そんな事をしても仕方がない。


 麗美香は住み込みのバイトがないか必死に探し、母が反対するスキを与えずにこの土地に留まる事に成功した。


「あなたは本当に可愛げがない」


 母はそう言ってため息をついていたが、田舎には絶対行きたくない。


 進学校に通い、いい大学に通って、資格もいっぱいとって安定した人生を送りたい。出来れば安定した公務員になりたい。


 麗美香の目標はそれだけだった。


 周りは恋愛や趣味に浮かれているが、そんな事には全く興味がなかった。母にいくら可愛げが無いと言われようとも、安定した人生を送る為には手段を選んではいられないのだ。


 それが人生最良の答えだと思っていた。あの彼に出会うまでは。

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