闇夜
シャーロットを別邸に届けた後、ソフィアは古いサックコートを身に着け、包帯を顔に巻き、夜のロンディニウムに繰り出していた。
大雨の降る街灯の傍以外は真っ暗闇の街を、彼女は水たまりを蹴りながら歩いていく。向かう先はイーストエンド。目的は人探し。
大雨のため、通りを出歩く人間はほとんどいない。いたとしても、早く屋根の下に入ろうと走っているか、馬車と言う箱の中で雨を気にしていないかのどちらかだった。
一方のソフィアは静かな歩みだ。彼女は長い足のコンパスで、一見すれば優雅に、ともすれば雨に対して無感情に歩いていた。
そんな彼女はやがて、ガラの悪く、ゴミが散乱している通りにやってくる。そして、大雨の中営業している適当なパブの扉を開いた。
パブで酒を飲んでバカ騒ぎをしていた労働者たちはいっせいに押し黙る。なぜなら、入ってきた人間が、よれたシルクハットから水を滴らせ、包帯を顔に巻き、サックコートの裾から垂らした水で床をぼたぼたと鳴らしているのだから。
そして、その包帯の男は低く静かな声で問いかける。
「最近、急に羽振りが良くなった奴を知らないか?」
その、外の雨降る闇夜に引きずり込まれそうな声に、労働者達は一斉に首を振る。しかし、その回答にソフィアは満足しなかった。
「突然、高い酒を飲むようになったり、仕事をやめると言い出した奴を知らないか?」
「しっ、知らねえよ。出ていってくれ……」
パブの店主らしき男がこの場にいる全員を代表して、おびえたように顎を引き、上目遣いになりながらそう言う。そこまで言われて、ようやくソフィアは満足したのか、無言で頷き、踵を返してパブを出ていった。
そして、彼女がいくつかのパブに同じようなことをして、空振りに終わった後に向かったのは娼館。
この時代のロンディニウムには無数の娼館と、数えきれないほどの娼婦がいた。彼女たちは自分の体を使って、違法行為とグレーゾーンを行き来しながら、日銭を必死に稼いでいたのだ。
そんな娼館の内の一つを適当に選び、ソフィアは扉を開く。その娼館はまるで宿屋のようになっていて、その受付には強面の男がいた。彼は急に入ってきた包帯の男にも怯まずに舌打ちをする。
「最近、見た目不相応な奴が来なかったか?」
「知らねえな」
「明らかにうらぶれているのに、高い女を買おうとした奴に心当たりは?」
「ねえよ」
強面の男が首を振れば、ソフィアは何も言わずに娼館を出ていこうとする。すると、強面の男は何かを思い出したかのように一瞬横を見て、それから口を開いた。その言葉に、ソフィアは開けかけていた扉を再び閉める。
「少し前、うちのが、『客が変な男に稼がないか?って誘われてたらしいわ。私も稼ぎたいねえ』って言ってたな。
多分、客は港湾労働者だ」
ソフィアは扉に手をかけたまま、後ろを振り返る。
「助かる」
「ああ。もう金輪際関わらないでくれ」
「保証できないが、善処しよう」
ソフィアは今度こそ扉を開いて、通りに出る。ますます雨は酷くなっていて、ザァッザァッと風によって叩きつけられる雨粒が音を激しく鳴らしていた。もはや、嵐と言って差し支えなかった。
(アランの暗殺に鉄砲玉を使ったのは確定か。そして、その選定に何人かに声をかけたといったところか。
実行犯が生きていればいいが)
ソフィアはイーストエンドをさらに歩き、その中心となる港湾施設の方面へと足を延ばす。そして、その内、とあるパブを見つけてそこへと入った。
中には屈強な男どもが楽しく酒盛りをしていた。彼らの手にはカードが握られており、賭け事に夢中になっていたようだった。そんな男たちが今しがた入ってきた包帯の男に気が付くと彼らはいっせいに押し黙り、静かなパブに軽食を作るキッチンの音だけが響く。
「最近、急に羽振りが良くなった男を知らないか?」
「知らないねぇ……」
ソフィアの今晩の定型文と化した質問に、男たちの中で一番の老け顔が答える。その表情はとぼけた物で、ソフィアは溜息をつきながら自身の肩を払って申し訳程度に雨を払う。
「知っている口ぶりだな」
「さあねぇ……」
ソフィアはポケットからシリング硬貨を取り出すと、一番近くにあったテーブルにそれを一枚置きながら男の表情を観察する。彼は無精ひげの生えた顎を撫でながら天井を見上げていた。
そして、そんな男の表情を確認しながら、ソフィアはそのシリング硬貨に2枚目、3枚目と同じものを積み上げていく。そして、5枚目になった瞬間、男は唸るような声をあげた。
「うぅぅん……。それくらいでいいか。アイツみたいに、持ちすぎも良くないからな」
男がそう言いながらテーブルのカードを集めてシャッフルしていく。
「ここから少し行ったところに、もう一軒パブがある。そこでとある男二人がトラブルを起こしてな。
まあ喧嘩だよ。喧嘩。突然金回りが良くなった男を羨んだ奴が、そのお前の探してる男に殴りかかってな。最後は、殴られた側がナイフでざくーっと」
「明らかにタガが外れてやがった。ナイフで腕を裂いた後笑ってやがったんだ」
無精ひげの男とは別の男が、吐き捨てるように言えば、その二人が持っている情報はもう無くなったようだった。ソフィアはその情報に頷けば、また口を開く。
「いつだ?その男の名前は?この話、どれくらい知られている?」
「喧嘩自体はちょうど昨日。名前なんて知らないね。ここいらじゃその話で持ちきりさ」
「感謝する」
ソフィアはそう言えばパブを出る。そして、パブを出た後、左右を見渡した。誰もいないが、何となく誰かがいる気配は感じられた。その気配を放つのが、どんな人間かまでかは分からなかったが。
彼女はため息をつくと、雨が染み込みきってがぽっと音を鳴らす革靴を一歩前に出した。向かうのは先ほど聞いたばかりのパブ。
(昨日、今日で殺されていなければいいが)
アランを殺した犯人に繋がる糸口を胸に、通りを歩くソフィアはやがて違和感に気が付く。歩けども歩けども、先ほど示されたパブにたどり着けないのだ。それに、人ともすれ違わない。
「なるほど。実行犯を泳がせていたのは、私をつり出すためか。
同じようにここにきただろう警察官は殺したのか?」
ソフィアがそう言うと、馬車も何も通ってこない通りの真ん中へと立つ。そして、辺りを見回した。もはやここは現実世界ではない、異界だ。
「その通り!あの男と接触していた包帯の男、上手く誘い込めてラッキーだ」
突如、そんな楽しそうな声が通りに響く。反響して音の出所がつかめないことにソフィアは舌打ちをし、彼女はゆっくりと辺りを見回しながら懐に手を入れる。
「キミたちは知り過ぎたんだ。死んでくれ」
ソフィアは一気に濃密になった死の気配に、さっとその場でしゃがみながらサックコートのボタンを外し、リボルバーを抜く。
その瞬間、元々頭があった位置に何かが通り過ぎた。
そして、背後に振り返りながらソフィアは、頭から尻まで完全に寸胴な円筒形のリボルバーの銃口を向ける。振り返ったそこには、不思議と雨に濡れていない白シャツに身を包んだ人型が立っていた。
ソフィアはその人型の顔に靄がかかっているのを確認すると、その銃口をわずかに下に下げて、胸めがけて引き金を引いた。
響く銃声、飛んでいく鉛玉、然れども、何も起きない。
「そんなもの。効かないよ。人間じゃあるまいし」
「じゃあ、何だ?化け物め」
ソフィアが油断なく人型に向かって銃口を向けながら問いかける。リボルバーの機構を誤魔化すための覆いに雨が当たり、弾け、照準器の周りには水しぶきが飛び跳ねていた。
そしてその奥で、人型は両手を大きく広げ、楽しそうに宣言した。
「悪魔さ!」
「悪魔、ね」
ソフィアは右手で銃を持ちながら左手をゆっくりと動かし、開いたサックコートの内側、腰のあたりに手を伸ばす。そこには、リボルバーのためのホルスターがあり、もう一つ、ガラスの小物も提げられていた。
「悪魔、名前は?」
「ん~?今から死ぬ人間に名乗る名前はないねぇ!」
ソフィアはそのガラスの小物の底についたレバーを勢いよく傾ける。
ガリガリガリッ!と石が擦れるような音が鳴り、同時にガラスの内側で激しく火花が散る。その火花に照らされるのは一本の蝋燭。
悪魔は光るソフィアの腰の物を見ると、顔の靄を激しく渦巻かせる。
「蝋燭は古くから魔よけの意味があるらしいな」
ソフィアの腰に下げられたものはランタンだった。見事な装飾が施された金属フレームに4つのガラス面、その中にあるのは蜜ろうで作られた蝋燭。
その蝋燭はオレンジ色の穏やかな光を放ち始め、その光はソフィアを中心に不思議なほど暖かに広がっていった。
悪魔はソフィアを中心に放たれる光を遮るためか、腕を顔の前に掲げて一歩後ずさる。
「ぐっ!くそっ!」
「蝋燭程度でそこまで怖気づくか」
ソフィアは内心で目の前の悪魔は大した強さの物ではないと判断した。アスタロトのような大悪魔が使役する下っ端悪魔程度だろうだと、自身の少ない知識から相手の力量を測る。
「舐めるな!!」
ソフィアの言葉に悪魔は顔の靄を渦巻かせながら大きく一歩踏み込んでくる。ソフィアはそれに素早く反応し、後ろに飛ぶ。悪魔が手を振るえば、腕が鞭のように伸び、ソフィアが元居た地面を殴りつけた。
しかし、その攻撃を簡単に避けてしまったソフィアは、悪魔の体が硬直した瞬間を狙ってその肩に向けて引き金を引いた。
パァン!
「いぎぃっ!」
「聖別してない鉄弾でもそれなりには効くのか」
鉄弾が素通りしたはずの何も起きていない肩を押え、悪魔がのけぞり悲鳴を上げると、ソフィアは引き金を引き絞りながら悪魔の胸に照準を合わせた。
「次は聖別せず、ゲッケイジュの装飾をした鉛玉だぞ」
シリンダーが次の鉛玉をチャンバーに送り込むと、それはすぐに発射される。
「ひぅっ!」
すると、やはり悪魔の胸を弾丸は通り抜けるが、彼のモノは胸を押えてたたらを踏む。ひるませる程度の効果はあるらしかった。ソフィアは悪魔に照準を向け続け、実験動物を見る目と同じ目で睥睨していた。
「次は、聖別せず、装飾をした鉄弾」
「ごぁッ!!」
次の弾丸は悪魔の胸に大きな風穴を開け、悪魔は後ろに倒れ込んでしまう。ソフィアは腰のランプを掲げ、水たまりが目立つ道路に倒れ込んだ悪魔に歩いていく。
ソフィアの水を蹴る足音を聞いた悪魔は、震えながらなんとか彼女から逃れようと必死に手足を動かす。しかし、無情にも這いつくばる悪魔の背中に鉛の弾丸が突き刺さった。
「やめっ!ひぎゅぅ!!」
「聖別した鉛でも怯むくらいか」
ソフィアは一度リボルバーのシリンダーを横にスライドさせて、装填された弾丸の薬莢の底面の刻印を読む。そして、確認が終われば、すぐにシリンダーを戻し、うつ伏せに倒れ込む悪魔に銃口を向けた。
「次、聖別した鉄弾」
「嫌だ!嫌だぁぁぁあ!!」
悪魔の必死の悲鳴を聞いたソフィアは、照準を大きくずらし右ひざのあたりに向ける。そして引き金を引いて、銃声が鳴った瞬間、その足が付け根から消し飛んだ。
「ぎゃぁぁぁぁあああああ!!」
けたたましい叫び声と共に悪魔の周りの水がはじけ飛び、今まで濡れていなかったシャツがどんどん濡れ始める。泥すら被った、右足と胸に風穴があいた悪魔はもはやただの弱者だった。
そんな悪魔にソフィアは無慈悲に、引き金をゆっくりと引き絞る。
「最後は、聖別し、ゲッケイジュの装飾をした鉄弾だ」
「やめて……やめて……」
戦意が喪失したらしい悪魔に、ソフィアは油断なく引き金をわずかに絞ったまま言葉を投げかける。
「探偵を殺したのはお前か?」
「違う……俺じゃない……」
悪魔は顔だろう部分を地面に擦りつけながら震える声で答える。ソフィアは悪魔のその回答に眉を顰めると、足を振り上げ、残った左足首に向かって蹴り下ろした。
「ぐうぅっ!」
「……そうか、悪魔には正しく質問をしないといけないのだな。
質問を変えよう。探偵を殺すように命じられ、殺す方法は港湾労働者を仕掛けた。合っているか?」
「そうだ!そうだから、見逃してくれぇっ!」
ソフィアは呻く悪魔を見て、悪魔にも痛覚があるらしいことを認識しながら、彼のモノの足首を踏みにじりながら続いて質問をする。
「誰に命じられた?」
「言えない!」
「特徴も言えないか?言えないというのは、そう縛られているのか?」
「言えない!言えないんだよ!」
ソフィアはその回答にこの悪魔からは大して情報を得られないことを察すると、ため息をついて足をどける。すると、その瞬間、悪魔はうつ伏せの状態から上半身を起こし、体をひねりながら腕を高速で振るった。
「むっ」
油断はしていなかったが片足をあげていたソフィアは、その鞭のようにしなる腕に向かって、退かしかけていたその足を伸ばすことでしか対処することが出来なかった。
人ならざる膂力で振りぬかれた腕を足場にソフィアは後ろに吹き飛ばされることになってしまう。
思わずランタンを手放すほどの衝撃、加えてわずかな浮遊感。
数メートル後方に吹き飛ばされたソフィアは地面に上手く着地し、水しぶきをあげながら僅かに後ろに滑ってしまう。
地面にしゃがみ、片手をつきながら顔をあげたソフィアは、必死に片足と両手を動かして逃げようとする悪魔の背中を見る。彼女と悪魔のちょうど中間に落ちるランタンの光の外に、彼のモノが逃げのびようとした瞬間――
「逃げるなよ」
――ソフィアは最後の鉄の弾丸を発射した。
その鉄弾は、銃口から飛び出た瞬間、美しい光の尾を描いた。
まるで、分厚い雲から降りる天の梯子のようなその光は、真っすぐ悪魔の後頭部へと刺さり、その靄を一瞬で晴れさせた。
そして、悪魔は前方に倒れ込むように体を傾けさせながら、白い塵へと化していった。
「今のは一体……?」
ソフィアは両手で保持したリボルバーを茫然とした表情で見つめる。現実世界での試射では今のような摩訶不思議な現象は発生しなかった。
試射と今の状況の違いから、異界だから今のような現象が発生したことは想像に難くなく、彼女はそんな現象を発生させたリボルバーと鉄弾にわずかな畏れを抱いた。
(この畏れは大事にしないといけないだろう。
畏れ敬わなければ、超常からはそっぽを向かれることになるだろうから……)
ソフィアは地面についていた膝を持ち上げ、ようやく立ち上がる。悪魔の一撃を受け止めたことと、地面に着地した瞬間に感じた衝撃で足が痛み震えたが、今はそれどころではなかった。
(まだ、やらなければならないことがある)
ソフィアはランタンを拾い上げると、その火を消しながら、異界が縮小して行くのを何となく感じていた。人出が無かったので、異界と現実もそう変わりはしなかったが、ソフィアは現実に帰ってきたと感じると本来の目的地であるパブの方へと歩いていく。
そして、今度こそパブに到着し、扉をやや乱暴に開くと、中はアルコールと変に甘い匂いで満ちていた。
「なんだぁ?」
二人の女に囲まれてそう声をあげたのは、赤ら顔の鷲鼻の男。その男を見た瞬間、ソフィアは直感を得た、こいつだ、と。ソフィアは他の客にも目もくれずに鷲鼻の男の前まで歩いていくと、ポケットに手を突っ込みながら問いかける。
「最近、男を殺したか?」
その突然の質問に、二人の女はぎょっとした表情で鷲鼻の男を見、当の彼はまるで武勇伝を語るかのように誇らしげな表情で高らかに歌い上げた。
「そぉ~だぞぉ!いぇ好かない、インバネスコートの奴ぉ、殺ったぜぇ!」
どうやら男は泥酔しているようだった。呂律が半分しか回っておらず、周りの女がそそくさと逃げていくのにも気付かず、周りで見守っていた別の客も慌ててパブから出ていくのも気にしていないようだった。
「そうか」
ソフィアはテーブルの上のサイダーを見た。
「美味いか?そのサイダー」
「うめぇ……」
鷲鼻の男はグラスに手を伸ばしながら、どこか感じ入る様にその酒を眺めた。きっと、安酒のジンしか飲めていなかったのだろう、それと比べるとサイダーはきっと美味しかろう。
「……まあ、美味いだろうな。
私だって、人を殺した後の食事は何ら変わりなく美味く感じる」
「へぇ?」
鷲鼻の男が物騒なことを言い始めた目の前の珍客に、素っ頓狂な声を出しながら顔をあげる。見上げた、雨と泥濡れの包帯の男の、包帯の奥の目は無感動にこちらを見下ろすばかりだった。
「明日からも美味しいココアが飲めそうだよ」
ソフィアはそう言った瞬間ポケットからナイフを抜き、鷲鼻の男のグラスに伸ばしかけていた手の甲へ、思いっきり突き刺した。
「ぎぃゃぁぁぁあああ!!」
男は突如右手に感じた熱のような痛みに叫び声をあげる。その悲鳴にソフィアはうるさいなと舌打ちをすると、彼の頭を掴み、そのまま顎をテーブルに叩きつけることで無理やり黙らせる。
「ぅぅぅぅぅ……っ」
「抵抗するな。分かったか?逃げようとしたら殺す。いいな?」
ソフィアの低い声に男はガクガクと震え、涙も零しながら不自由な首で何とか頷く。
「喋っても殺す」
ソフィアがそう言いながら掴んでいた頭を放し、そのままナイフでテーブルに縫いつけた血まみれの手首を掴んだ。そして、ナイフを抜きつつその腕を彼の背に回すと、軽く極めながら椅子を蹴る。
「立て」
「へ、へい……」
鷲鼻の男は完全に酔いが醒めたのか、震える足で立ち上がる。ソフィアはそんな男のスーツの背中に、小さくない穴があることを認めると、ため息をついた。
「金が入ったら真っ先に酒と女か。さあ、歩け!」
ソフィアが血濡れのナイフをちらつかせながら鷲鼻の男を歩かせ始める。するとパブの店主がカウンター奥から、真っ青な顔で声を投げかけてきた。
「お、お代を」
ソフィアは鷲鼻の男のスーツの中に手を突っ込むと、そこに乱雑に入っていた硬貨を全て抜き取り、そのまま床に落としていく。コトンコトンと床に落ちていくコインをソフィアは自然と数えてしまった。
それなりの額はある。
女と酒に使った分も加味しても、それなりの額はある。
だが、それなり、だ。
ちょっと豪遊して、何度か物を新調すれば無くなってしまうような額だった。
「はした金だが、足りるか?」
ソフィアがため息交じりにそう言えば、店主はこくこくと頷く。ソフィアはその店主に目礼をすれば、ドアを蹴り開けて、鷲鼻の男を外へと連れだした。
薄明るかったパブから出れば、そこは灯りが少ない嵐吹きすさぶ道。
鷲鼻の男は媚びるような目つきで後ろのソフィアに振り返ったが、その男に対する返事は後ろ手にした腕を締め上げることだった。
「少し歩くぞ」
そうして、ソフィアはアランを殺した男を伴って街を歩き始めた。
向かう先は、シャーロットが待つ別邸だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます