モブAに転生したのでヒロインといちゃいちゃしたいと思います〜なのに何故かヒロインに嫌われたるんですけど〜

@morukaaa37

プロローグ



 それは一目惚れだった。運命の出会いとも言っていい。彼女達の存在を知る度、僕の身体には電撃とも呼べる程の強い衝撃が走った。


 ページを捲るごとに、僕の心は彼女達の魅力に染まっていく。彼女と絶対に会えないということは、重々理解していた。それでも、僕は彼女達のことを一時も忘れることなど出来ない。


 思春期に限らず、誰にでも他者に恋心を抱くことはある。ドラマの女優、ライブ中のアイドル、同じ教室の女の子に、近所の幼馴染。僕の場合、それは二次元の少女だった。


 ぶっちゃけ正直に話すなら、僕は何度も浮気をしている。初恋のキャラから離れ、別の世界のキャラクターを好きになることなんて何度もあった。


 ただ、そんなもの現実社会の中でも良くあること。はっきり言って、二次元には暴力的な魅力を放つ少女が多すぎた。そのせいで、僕は三次元の異性を魅力的に感じたことがない。恋愛経験など皆無だった。


 もちろん、自分でも二次元から離れようとした時期があった。だが、残念なことに、僕の中の理想の女の子像は二次元によって狂わされていたらしい。リアルの女の子と関わる度、僕は自分の理想と現実のギャップにもがき苦しむばかりだった。


 僕は考える。どうすれば僕は、自分の理想とする異性に出会えるのだろう。


 真っ先に思いついたのは、コミュニティスペースの拡張だった。三次元には、僕がまだ知らない女の子がたくさんいる。誰かは言った。世界中に男が何人いると思っているの?と。なら、逆も然りだろう。


 僕は、LIN○マンガや、ピッ○マの通知しかならなかったスマホに、流行のSNSを入れることにした。女の子に近づいて貰えるように、髪型や服装の勉強もした。


 結果、どうだったか。


 僕の病気は重症化した。


 たった10数年しか生きていない僕には、全世界中の女の子から理想の子を見つけることなど不可能だった。


 見た目だけ好きでも、会えないことの方が多く、会えたとしても想像との違いにシラけるばかり。


 大体、自分自身、漫画の主人公のような魅力があるのかどうかすら怪しいというのに、他人には二次元の少女のような姿を強要するのはおかしな話だった。


 僕は最終的に、諦めることにした。


 僕のような人は沢山いるし、その人達も自分と同じ結論に至っている。みんな、歳をとるにつれ、現実を見て、妥協して、そこそこの幸せな家庭を築いている。


 じゃあ、僕もいつか彼女達から離れる時期が来るのだろうか。そうだろう。愛は無限なんて言うが、そんなもの僕は信じていない。何故なら、それを認めたら僕が彼女達を諦めることは、僕の彼女達への愛が足りないということになってしまうからだ。


 また、頭を抱え自己矛盾に苦しみながら、僕はふと気づいた。


 二次元のような三次元の女の子に出会うことは不可能だ。それは理解している。でも、じゃあ、どうすれば僕のこの気持ちは薄まるのだろうか。


 ───自分で理想の二次元を創り上げればいい。


 なんて画期的なアイディアだ。当時の僕は、本気でそう思った。だから、僕のそれからの行動は早かった。


 自分の好みのルックス、性格、背景を想像し、書き記していく。自分の妄想を言語化するにつれ、新たな世界が創られていく感覚があった。


 僕のフェチの集合体とも言えるそれは、次第にアップグレードされていった。初めは自己満で書いていた世界を、僕は周りに発信するようになった。不特定多数の人々がその世界を認知し、反応を示すにつれ、その世界に確かな輪郭が現れていく気分になる。


 それは、二次元を愛する者として最高の感覚だった。僕は、決めた。この世界で生きていこうと。


 僕の青春は、第三者から見れば、つまらないものだったかもしれない。だが、確実に、僕はその日々を楽しんでいた。


 たがら、思う。あの日々に戻りたいと。


 まだ、二次元を愛していたあの頃に。


 二次元が三次元に現れることを本気で願っていたあの頃の自分は、やはり間違っていたと。


 ───僕は、僕が僕の世界に生きることを決めた日から数年後、突然飛び出してきたトラックに轢かれた。


 



 ♢♢





 結論から言おう。


 僕がトラックに轢かれたあの日から、僕は、物理的に僕の世界で生きていくことになった。


 正確に言うと、僕の創り上げた漫画の世界に、僕は転生した。


 何故、分かったかと言うと、僕が転生した子の行っている学園。その名前が僕の描いていた漫画と全く同じで、僕の隣の席の子がその漫画のヒロインだったからだ。

 

 ちなみに僕は、ただのヒロインの隣の席のモブAだ。作者の僕が言うのだから間違いない。興味のないキャラは黒髪黒目の普通顔にしていたので、鏡を見たらすぐに分かった。なんて描きやすい顔なんだろうと感動する。


 正直なところ、モブに転生したからといって、僕は全く悲観していなかった。むしろ、興奮していた。


 だって、そうだろう?何年もかけて、脳内で創り上げた世界に、今僕は立っているんだ。これほど、漫画家、いや二次元を愛する者として嬉しいことはない。脳が震える。


 てことで、僕は自由に、この世界を楽しむことにした。世界観は、中世ヨーロッパを基調にした、魔法と剣の世界。危険も多いが、僕には問題ない。何故なら、僕がこの世界の創造主だからだ。


 バトル要素を入れる上で、スキルやら魔法やら技能やら、割と入念に設定して良かったと思う。今の僕は、ただのモブAなどではない。もはや、この世界最強ともいえる強さを獲得する可能性がある。


 まあ、まだ本格的な修行をしてないからなれるか分からないけど。まあ、なれるさ。だって、僕、作者だし。


 僕は、転生してはじめての1日を、この世界の観察に当てていた。なので、行動を起こすのは、明日からにしようと思っている。


 学園は今日、初めての授業があったばかり。つまり、物語が始まるのもこれからってことだ。


 焦る必要はない。これから力をつけ、ヒロイン達に近づいていこう。正直、今の段階で話しかけに行って、ヒロイン達と仲良くなれる気はしなかった。


 何故って?

 そりゃ、そこらへんのモブに落とされるほどのチョロインなんて僕のタイプじゃないからね。いや、まあ、仲良くなれる子はいるだろうけど。どうせ会えるなら、友達のその先まで見据えたい。


 主人公という名のライバルもいるし。まあ、嫌いじゃないけど。なんせ、僕の理想の男像だし。それこそ友達になって欲しい。


 僕は、そんなことを考えながら、ふかふかのベットに身を任せる。


 あ、そういえば、僕は男爵家の次男だった。一応貴族だし、魔法や剣の素質もある。才能はないけど。


 そこら辺は、流石モブAって感じだった。顔も普通だし。これは、前世の記憶を使う時だろうか。髪型を変えるぐらいしたほうがいいかもしれない。


 ……金髪に染めようかな。


 そんなことを思いながら、僕は今日初めて目覚めたベットで眠りについた。


 


 


 


 


 

 

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