第二話「壁の中に潜む殺人ハムスター」
私の部屋の壁の向こう側には『殺人ハムスター』が息を潜めて生活している。
たまに天井裏の方へと移動している気もするが、主には壁の中にいることがほとんどだと思う。
位置的にはクーラーが設置されている壁のあたりにいることが多い。
よく『ガサガサ……ガサガサガサ!』と、なかなかに凄まじい物音を立てることもあり、場合によっては『トトトト……』と、なんか歩いているような感じの音がすることもあったと思う。
ただ私も人間なので、記憶が曖昧なことも多いのだ。
少なくとも『そういったいろいろなバリエーションの音を発生させている何か』であることは間違いない。
一見コウモリの羽音のようにも聞こえなくもない。ネズミの足音ようにも聞こえなくもない。多彩なバリエーションで私の心を惑わしてくる。ほぼ間違いなく『私を陥れようとしている知的生命体』であることは、疑いようのない事実だと思う。
私の家は木造なのだが、時として壁の中で家を支えてくれている大事な柱を『カリカリ』とかじるような音が聞こえるときもあるのだ。
どう考えてもハムスター以外にいないだろう。おこである。むしろ激おこである。
あまりに酷いときは、激おこぷんぷん丸へと変貌することもある。
ただ私には、あの柱をかじるような音が、キツツキが木をつついているような音にも聞こえるのだ。
だがキツツキが壁の中にいるなどおかしな話だろう。
だから私の直感が、結果として『殺人ハムスター』なのだと決定づけたのだ。
これは間違いない。保障しよう。私の部屋の壁の中には『殺人ハムスター』がいる。
だが保障するといっても何を保障するかが問題であって、私もさすがに命を差しだすほどの保障はできないため、少し考えさせてほしいと思う。
その間に、もう少し記憶を
確かに私の見立てでは『殺人ハムスター』で間違いないはずなのだが、壁の中をうろちょろと動きまわる音もたまに耳にしたことがあるような気はしている。
あの記憶が本物だとすれば、あれはもしかしたら壁の中に猿が生息している証なのかもしれない。
壁の中で柱から柱へと華麗に飛び移りながら、横組みの柱の上に立ってバナナを食べている様が容易に想像できるだろう。
これは誰にでも想像できるレベルの推論であり、いわば初心者でもたどり着くことができる真実だ。
だからこそ壁の中の生物が、その裏をついている可能性を考えなければならないのだ。
私ほどのレベルに到達すると、そのくらいでは騙されないようになる。
もうひとつの可能性として、私は蜂の存在を疑っている。
ただし私も神ではないので、その蜂がスズメバチなのか、アシナガバチなのか、あるいはミツバチなのか、その種類まではわからない。
なんとなく音の印象から、壁の中にある木の柱に蜂が巣を形成しているように感じるのだ。
これもいずれ検証する機会があれば、なんとか調査はしてみたい気はしている。
そういえばエアコンの中に殺虫剤を射出して様子をみてみたことがある。
なぜならばエアコンのあたりから音が聞こえてくる場合が多かったからだ。
基本的には無反応だが、何度か殺虫剤の射出に反応して『ドタバタドタバタ!』と、とてつもなく大きな音がしたことがある。
あれは思った以上に大きい個体が蠢いている音ではないかと感じた。
もしかしたら以前にお伝えした家の裏のドブに生息している河童が、天井裏を拠点に生活している証なのかもしれない。
生命活動をしているときは、できるだけ人間に見つからないように家の壁の中にいるのだろう。
誰でもそうだが、じっとしているのは非常に疲れる。きっと河童でもそれは一緒だろう。
だから、たまたま彼が動いたときの音を、敏感な私のセンサーが感知してしまったのではないかと思うのだ。
よって可能性としては『殺人ハムスター』か『裏のドブに生息する河童』か、そのどちらかである可能性が高いだろう。
しかしながら、その事実確認をするのは極めてむずかしい。
なぜなら壁に穴など開けたくないし、壁に穴を開けなければ壁の中身を見ることはできないからだ。
以上から確証を得ることができないため、結果的に保障してどうなるものでもないのだが、仮になにかを保障しなければならないのであれば、もしこの推測が誤りであった場合『私は口からスパゲッティを食べてもいい』と思っている。
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