第38話 ベッドorソファ問題
それが、今朝のことだ。
そして今はというと。
「私がソファで寝ますからっ! ベッド使ってくださいっ」
「私が招いたのにそんなところで寝かせられるわけないです! 空がベッドを使ってください!」
「それこそこの部屋の主がベッドで寝るべきですよ! 私はソファでいいですから!」
「いえベッドを!」
「そっちこそベッドで!」
「「私がソファで寝ます!」」
――私とアリスは不毛な争いの真っ只中であった。
今朝、話し合いが終わるとアリスは「それでは今夜職務が終わったら迎えに行きます」という言葉を残して、部屋を出ていった。
私達の部屋の前には護衛兼監視の見張りが二人。レオナの部下だという二人は、部屋を出る際は私達もご一緒させて下さい、とのことだった。
わざわざ二人を連れて出歩くのも何だし、何よりまだ多少の疲れが残っていたので、私は夜まで部屋でゆっくり過ごすことにした。
神様と時折話をしたり、昼寝をしたり、お昼やおやつを食べたりしていたらいつの間にか夕方で。夕食やお風呂(頭と背中は神様に洗ってもらった。)をすっかり終えた頃に、アリスはやって来て。
私は神様に見送られてアリスと共に彼女の部屋へと向かった。
そうしてついたアリスの部屋は、それは豪華な部屋だった。
「わあー……!」
私にあてがわれている部屋よりも当然のことながら広く、調度品は洗練されていて品がある。カーペットはふかふかで、ソファも大きいし、寝室のベッドは天蓋付きで、人が三人は悠々と寝れそうな大きさだった。
「凄い……素敵な部屋ですね……」
「この部屋のものは何でも好きに使って頂いて構いませんから。寝るときもベッドを使って下さい」
ぽけっと部屋を見渡す私に、アリスはベッドを指して言った。私はこっくりと頷く。
「そうですね、この広さなら二人で寝ても全然大丈夫そうですね」
「えっ」
「え?」
するとアリスが目を見開いて私を見た。何を驚いているのか分からず、私は首を傾げる。
アリスは目をパチパチとさせて、確かめるようにゆっくり口を開く。
「……二人で?」
「え、だって、寝るときは一緒にって……」
「寝るときは私の部屋で、とはお誘いしましたが、一緒に寝るとは、言ってませんが……」
「……えっ!?」
今度は私が驚く番だった。どうやら、私は物凄く恥ずかしい勘違いをしていたらしい。
勝手に一緒のベッドで寝ると思って、ドキドキしたりしてしまっていた……!
「す、すいませんっ! 私、どうやら勘違いを……!」
「……一緒に寝る、と?」
「すいません……てっきり、そうなのかと……」
うう、何だか一緒に寝ることを期待していたようで恥ずかしい……。
恥ずかしくてアリスの顔が見れず、俯いてしまう。するとアリスが私の手を取って、囁くように言った。
「……私は、いいですよ。一緒に寝ますか?」
「ええっ!?」
ぱっと顔を上げると、悪戯なアリスの顔。くすくす笑って、アリスは私の手を放した。
「ふふ、冗談です。カミュ殿とも約束しましたから」
「う……からかいましたね……」
「そんなことは。ただ……」
「ただ?」
「一緒になんて寝てしまっては、我慢ができませんから」
伸びてきた手が、私の頬を軽く撫でて放れて行く。
我慢、という単語が頭の中で浮かんで、それが何を指しているのかなんて、考えなくとも流石に理解していた。
熱くなる頬を隠すようにふいっと顔を逸らすと、アリスは少し笑って言う。
「ベッドは空一人で使ってください。私はソファで寝ますから」
その言葉に私はぱっと顔をアリスへと戻す。それはいけないっ!
「えっ! そんな訳にはいきませんよ! 私がソファで寝ますから、ベッド使ってください!」
今日一日働いてきたアリスをソファで眠らせるなんて申し訳ない。私なんて今日一日ごろごろしかしていないのだ。こんな寝心地抜群そうなベッドを使うわけにはいかない。
それにこの部屋のソファも十分大きくてふかふかしてそうだから、私はソファで全く問題ない。
でも、アリスは首を振った。
「お気になさらず。仕事をしながらうたた寝してしまうこともありますから、ソファぐらいどうということはありませんよ」
「それって凄く疲れてるってことですよ! 私のことは気にしないでベッド使って下さい! 私だってソファで眠りこけたことは一度や二度じゃありませんから!」
「いえ、空がベッドを」
「いえ、私はソファを」
「空が!」
「そっちが!」
――そして、今に至るというわけです。
「ら、埒が明きません……」
「……ええ、そうですね……」
お互い荒い息で向かい合う。言い合いは平行線であった。
「もう、同性ですし、こうなっては一緒に寝てしまえばいいのでは……」
いくらアリスでも、流石に隣で寝てるだけで必ずどうこうなるわけではないだろう。
そう思ったのだけど、アリスは真顔で首を振った。
「駄目です。カミュ殿に空を連れて行かれてしまうのは避けたいので」
「……何かが起こる前提ですか……」
「ですが……確かにお互い一歩も引きそうにありませんし……どうしたら……」
アリスは困った顔で顎に手を添える。
アリスの言う通りだ。このまま話し合っていても、現状は変わらないだろう。
何か良い案はないか……と、考えて、あるものが目に止まった。その瞬間、ピコンと頭に電球がつくが如くの閃きが起こる。
「……分かりました。ここは私にお任せくださいっ」
「何か妙案が?」
「はいっ! こうこう……こうすればいいのですっ!」
「こ、これはっ……!」
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