第24話 それぞれの好感度

 王冠を被った人のカード、剣を掲げている人のカード、両手を合わせて祈っている人に、剣と本両方抱えている人のカード。全部で四枚のカードが並べられた。


「このカードは空を取り巻いている人達を表しているはずだよ。それぞれのカードの模様に心当たりは?」

「ある」


 私はこくりと頷いてカードを見つめる。並べられたカードには、もちろん全て見覚えがあった。ファンラブとほぼ同じカードだ。


 王冠は王女であるアリスを表わしていて、剣は騎士であるレオナ。祈っているのは聖職者のアステラで、剣と本を抱えているのはローレンだ。

 ファンラブではそれぞれ男性が描かれていたけど、今は全部のカードが女性になっている。


「それは良かった。では順番に」


 ヴィラは一番自分に近い方のカードを手に取ると、私に差し出した。王冠のカード、アリスだ。


「まずこれ。一番空への好感度が高い。100を一番上とするなら、87はある」

「そんなに!」

「これからもっと上がるようだね」

「そ、そんなに……」


 まさかそこまでアリスの好感度が上がっているとは……しかもまだまだ伸びしろがある様子。

 87といえば、終盤序章あたりの好感度だ。いくつかのイベントをこなし、お互い強い信頼関係が出来ている頃合い。何があっても出会って二日目の好感度じゃない。

 なんでアリスはそんなに好感度が高いんだ……⁉


 困惑しながらアリスのカードを見つめていると、ヴィラがちらりと私の胸元、いや、ループタイを見た。


「もしかして、その宝石はその人からの贈り物?」

「ええ⁉ 贈り物というわけでは……」


 ヴィラの言葉にドキマギする。確かにアリスが選んだものだけど、贈り物として受け取ったわけではない。

 というか、なんでわかるの……⁉ 占いをするものとしての勘⁉


「まあ、いいけど」


 私が慌てている様子をふーんと見て、何でもないように切り捨てる。そのそっけない態度にやっぱり勘か……と落ち着かない心臓に手を当てた。


 ヴィラは先ほどと変わらない様子で、今度は自分より一番遠いカードを手に取った。


「次はこれ。59ってところかな。これから仲を深めていくといいね」

「へえー」


 受け取ったカードは祈っている女性のカード。アステラだ。

 一見アステラは私に強い興味を抱いているように見えるけど、その実最初はそこまで好感度が高いわけじゃない。

 アステラは“巫女の私”に興味があるわけで、“私自身”に興味があるわけじゃないからだ。


 ゲームではアステルがそうだったし、ここでもどうやらその認識は間違いないらしい。だから無難な好感度といったところだ。


「これとこれはどちらも50だ。高くもなく低くもない。一番フラットな状態だね」

「まあそうよね」


 ヴィラが指さしたのは残り二枚のカード。レオナとローレンだ。

 この二人とは最初に出会った時からまだちゃんと喋れていないんだから、そんなものだろう。


 好感度に関してはアリスがバグっているだけで、どうやら残りの三人はゲームとの誤差はそこまでないらしい。

 でもこのままではアリスエンドにまっしぐらだ。どうにかノーマルエンドに行くためには、他の三人の好感度も上げて、みんな同じくらいの好感度にしなければならない。


 となれば、アリス以外の三人の好感度を少なくとも87まで上げなければいけないのか……つ、辛い。アリスが100に到達するまでにどうにかしなければ……!


 三人のルートを思い出しながら好感度を上げる方法を考えていると、うんうん唸る私をくすりと笑ったヴィラが、カードの束から一枚のカードを差し出した。


「そしてこれ」

「え?」


 五枚目? 一体誰の……?

 瞬きしながら受け取ると、カードにはハープを持つ、道化師のような恰好をした女性が描かれていた。


「好感度は……うーん、67ってところかな。もう一押しだ」

「えっと、心当たりが」


 顎に手を当て考えるように告げられた言葉に、私は首を傾げる。ヴィラは笑って、トン、と指でカードをつついた。


「あるよ。私のカードだ」

「えっ⁉」


 驚きに声を上げる。

 てことは、まさか私は今、ファンラブ五週目である隠しキャラルートに入っているってこと⁉

 ヴィラは驚く私のカードを持つ手にそっと自分の手を重ねた。


「もっと空のこと知りたいな。空には何か運命的なものを感じるんだ」

「そう言われましても……!」


 キラキラとした目でずいっと顔が近づいてくる。私はカードで壁を作るようにさっと自分の顔を隠した。

 見たらまずい。私は整った顔に弱いんだ!


 というかこんなこと、サポートキャラであるヴィラが言うはずがない。ならやっぱり、私はまだプレイしたことのない未知の五週目に入っているってことだ。


 神様め……まだ攻略していないキャラがいるとは話したけど、まさかその私の願いを叶えようと……? うう、喜んでいいのか悪いのか……!


 どんな話なのかは気になってたけど、ノーマルエンドを目指すために気にしないといけないキャラが増えたことになる。

 あと三人好感度上げないといけないのに、ヴィラまで入ってくるなんて……!

 それにまだプレイしていないヴィラはプロフィールも性格も何もわからないから、手探りで関係を作っていかないといけないということだ。なんとも難しい……!


 あ、でも、これでゲームと少しストーリーが違うことに合点がいった。先ほど魔物が出てアリスがいなくなったのも、ヴィラがゲームより早めに登場したことも、隠しキャラルートのストーリーなのかも知れない。


「何を考えてるの?」

「あっ!」


 顔を隠しながら神様への文句やこれからのことをぐるぐる考えていると、さっとカードを取り上げられてしまった。空いた手をすかさずヴィラが握ってくる。

 ああー! 顔が良い!


「ねえ、今度デートしようよ。素敵なところを紹介するよ」

「……素敵なところ?」


 ヴィラの提案におずおずと聞き返す。ヴィラはにこりとしながら、握る手にきゅっきゅっと力を込めた。な、なんか恥ずかしい。


「うん。人のいない静かなところ。空が良く見えて、気持ちよく昼寝ができるんだ」

「へえーそれは……興味あるかも……」


 ヴィラのいうデートは、中々素敵な提案に思えた。

 気持ちいいところで寝るのは好きだ。ぽかぽかしているところは安心するし、二人で並んで芝生か何かに寝転がっている姿はのどかでほっこりした。


 私の満更でもない様子にヴィラは顔を嬉しそうに綻ばせる。


「ほんと? じゃあ今度一緒に行こうよ。約束」


 そう言ってヴィラが小指を差し出す。すると、空中に選択肢がポンと浮かんだ。


《約束する/約束しない》


 ふむ。別にヴィラのデートは無茶な内容ではないし、アリスの好感度爆走を中和させるためにも、二番目に好感度の高いヴィラの好感度を上げるのは必要なことだ。

 ここは約束するのが無難だろう。


 約束する、を頭の中で選ぶと、自然と小指が出て、選択肢はすうっと消えた。

 私は出した小指をヴィラの小指に絡ませる。


「じゃあ……約束」

「うん。約束」


 一、二度小指を軽く振って、お互いの指が離れる。ヴィラが嬉しそうにふふっと笑うものだから、私はなんだか照れてしまう。

 好意をこうも純粋に表されると、どうにも気恥ずかしい。アリスの場合はなんというか、物理物理だから……。


 ふっ、と遠い目をしていると、ヴィラがハープを手に取った。ポロンと鳴らすと笑顔で私を見る。


「嬉しいな。一曲空にプレゼントさせて」

「わあ! ありがとう!」


 歌のプレゼントなんて、初めてだ。純粋に嬉しくて、身を乗り出してお礼を言う。ヴィラもふふっとほほ笑むと、すっと息を吸った。


「――天高く舞い上がる。上へ上へ、青空を駆ける。ああ、翼を奪われその者は、地に這いずる獣となる。もう二度と、空に帰ることは叶わない――」


 綺麗な歌声と音色。それはゲームで聞いたことがあるもののはずなのに、私は不思議に思う。

 歌が少し違うのだ。ゲームでは歌詞があるのは最初の「天高く舞い上がる。上へ上へ、青空を駆ける」の一節だけで、あとはメロディだけだった。


 隠しキャラのストーリーだから、その分歌詞も増えるということなのかな?

 疑問を感じながらも、歌は終わる。拍手をしようとした時だった。

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