第9話 私の目指す道
ファンラブのエンディングは、大きく分けて三通りある。
一つは魔物を退治し、誰かと付き合って終わるハッピーエンド。
ゲームをしていればこれが一番迎えたいエンディングだが、今いる世界の攻略対象は女性である。ノーマルな私としてはこのエンディングは避けたいところ。
もう一つは魔物を退治できずに迎えるバッドエンド。
色々選択肢を間違えた結果このエンディングになってしまうのだが、国を救えなかったうえに主人公は魔物に殺されてしまうのだ。こちらもなんとしても避けたいエンディングだ。
最後は、国は救えるが誰とも付き合えなかったノーマルエンド。どのキャラも好感度が足りなかったために迎えるエンディングで、あっちこっちに良い顔してたりするとこのエンディングになったりもする。
普段ならがっかりエンドだが――これも立派なエンディングであることに違いはない。であれば、私が目指すべきはこのエンディングである。
なんとしてもノーマルエンドにたどり着き、今度こそアレックスのいるファンラブへ行く! それが私の目指す道だ! 頑張るぞ! おー!
「おー!」
大声を出して拳を突き上げる。何が起きたのかわからずその態勢のまましばらくぼーっとしていたが、ハッと気づけば、そこは知らない部屋だった。
どうやら意識を失っていたらしい。私は鼓舞する声を出すとともにベッドから起き上がったようだった。
体に掛けられていた布団が起き上がって捲れたのだろう。膝にたまった布団を触る。柔らかく、上質なそれ。私は布団をぎゅっと握り、よしっと改めて気合をいれた。
「ふっ、くくく……」
「っ!」
突然聞こえた、押し殺したような笑い声。驚いて聞こえてきた横を見れば、そこには口を押えて笑いを押し殺すアリスがいた。
まさか誰かがいるとは思わず、しかも笑われていることが衝撃でぽかんとアリスを見る。
それに気づいたアリスは笑いながら、すみません、と謝った。全くすみません感が伝わらないのですが……。
「くくっ……いや、すみません、突然倒れられたので心配しましたが、ふふっ……お元気そうで良かった」
「……そんなに面白かったですか」
「ふふっ、だって、寝ていると思ったら、突然拳を突き上げるから……ふふふ、」
「…………」
どうやらアリスはツボにはまったらしい。くすくすと笑いが止まらないようであった。あんまりにも笑うから、私もだんだん気恥ずかしくなってきて顔に熱が集まってくるのがわかる。
真っ赤な顔でアリスを恨めしく睨みつける私に、アリスはふふふと笑いながら頭を下げた。
「ふふ、すいません。貴方を馬鹿にしているわけではないのです。ただ、驚いたのと、あまりにもお可愛らしかったので、思わず」
「流石にそんな台詞で誤魔化されません」
くすくすと気障な台詞をのたまうアリスにぶすくれて文句を言うが、そんな態度もアリスの笑いを誘ったらしく、アリスはまたくすりと笑って腰を折った。
「本心ですが……いえ、せっかく来ていただいたのに、貴方には非礼ばかりですね。申し訳ありません」
非礼ばかり、と言われて頭に出てきたのは初めの事故チュー。さっき以上に顔にぼっと熱が集まり、私も慌てて頭を下げた。
「あ、いえ、その、私も……色々すいませんでした……」
もとはと言えば、私が空中で暴れたから起こった出来事である。それが無ければ私はストーリー通りにお姫様抱っこされるだけだったはずなのだ。
それを私はっ……ああ、ファーストキスよ……アレックスとロマンチックに終えたかった……。
がくりと項垂れる私。それを不憫に思ったか、なんと声をかけていいのかわからなかったのか、アリスは明るい声で、そういえば、と話題を変えた。
「この世界のこと、国のこと、なぜここに呼ばれたのか、巫女殿はご存じでしょうか?」
「えっと……はい。大体は」
ここで全く素知らぬフリは流石にできない。私に演技力がないというのもあるが、何も知らないにしては私の態度は落ち着きすぎている気がする。
ゲームの話はややこしいし混乱させてしまうだけのような気がするので、ここはそれは隠して本当のことを話した方がいいだろう。
私が頷くと、アリスは興味深そうに眼を瞬かせた。
「それは話が早い。でもなぜご存じで?」
「えーと……私がいた世界にはこの世界のことを記したお話がありまして。それで、少し」
「お話! それはどのような? おとぎ話でしょうか? やはり巫女伝説のこととか? 貴方のいた世界はどのようなところだったのでしょうか?」
「え、えっと、」
身を乗り出してわくわくとした顔でアリスは質問してくる。その圧に気圧されて困惑していると、アリスはハッと気づいて、こほんと一つ咳ばらいをした。
「失礼しました、矢継ぎ早に質問ばかり……巫女殿も倒れたばかりで本調子ではないでしょうに」
「いえいえ! 私は元気ですから、大丈夫です!」
楽し気だったアリスが本当に申し訳なさそうにするから、私は慌てて首を振って元気アピールのために力こぶを作った。その様を見てアリスがまたくすくすと笑う。
その顔を見て私は何故かほっとした。美人が落ち込んでいるとどうにかしたくなってしまうのは凡人の性なのかもしれない。
「ありがとうございます。ですが、夜も更けて参りましたし、詳しい話はまた明日聞かせてください」
確かに、アリスが背にしている窓からは暗い空と丸い月が見える。夜更かしの常習犯としてはどってことないが、王女様を付き合わせて寝不足にさせるわけにはいかない。
アリスの提案に頷くと、アリスは、ですが、と続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます