第2話 君が悪い

 その日から、私は彼女に学校を教えてあげることにした。

 友達や先生には嘘を、そして彼女の所有物には泥を塗りたくれば、数週間もすると空気は変わり、由夏から笑顔が消えた。今まで幾度となく見た手口だから、私にも簡単にできた。由夏は何でもできて完璧だからこそ、それを壊したいと思う奴らはどんどん湧いてくる。


「おはよ、由夏!」


 いつも通り背中を小突くと、由夏は体勢を崩して机にもたれかかった。


「っ……」


 私の後ろからは数名のクラスメイトの笑い声。日課になりつつある由夏へのいじりはすっかり私の手に染みついて、心を満たしていく。

 うなだれた由夏を覗き込むと、その悲痛な顔が見えた。

 そう。それでいいの。


「大丈夫?由夏」


 私が笑顔で聞くと、由夏は何も言わずに上体を起こして席に座る。

 別に、これは遊びであって本気じゃない。由夏と私の仲だからできること。


「ねえちょっと理央ひどーい、やりすぎだってば」


 クラスメイトはそう笑いながら、由夏のバッグを蹴って通り過ぎる。これもいつものこと。

 由夏が蹴られたバッグをはたいて汚れを落とそうとしたので、すかさず遮ってバッグを持ち上げる。


「っ……」


 由夏は取り戻そうと手を伸ばしたが、私は素早くバッグを後ろの席に置いた。


「ちょっと中身見るだけだって~」


 由夏が立ち上がるより先にクラスメイトと席を囲んでバッグのチャックを開ける。


「何入ってるかなあ、えーと……」


 中身を探っていると、由夏がクラスメイトを掻き分けてバッグの持ち手を掴んだ。


「やめて」


 ぶっきらぼうに言ってバッグを引き戻す。その瞳は真っ直ぐこちらを睨んでいた。

私は目を細めてその視線を受け止める。


「えー何で?」


 首をかしげてみると、由夏の目が少し赤くなっていることに気づいた。


「え?泣いてる?ごめんって~」


 肩を掴むと振り払われた。

 おかしい。私と由夏の仲なのに。


「由夏ー?」


 名前を呼んでも答えない。


「聞こえないのー?」


 クラスメイトの煽る声。そしてほんの一瞬、由夏が首の向きを変えてこちらを意識したその隙を、私は逃さない。


「なんだ聞こえてるじゃん」


 そしてみんなと笑い合う。そんな日常が続いていった。

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