学園長と柚希さんが家に来た

「こんばんはー」


「お邪魔するのです」


 夕方、予告通りに静香学園長がやって来た。

 それはいいのだが、どういう訳か柚希さんまで来たのだ。


「とにかくお上がりください。 部屋に案内しますから」


 考えても仕方がないので、二人を家に上げる。

 夕方に来訪する事につけては、叔父さん達には通達済みだ。

 叔母さんは、お茶を用意するためにキッチンに向かったようだ。


「それにしてもビックリですよ。 学園長ならともかく柚希さんが来るなんて」

 

「静香ちゃんに事情を言うには私もいた方がいいと思ったのです。 ご近所ですし」


 確かに叔母さんとはママ友だから、柚希さんが一緒なら友人や姉妹で通せるけどね。

 それに俺の事情は、幸村と柚希さんと真人さんくらいしか知らないし……。

 だからかな?

 一応、身近な親族が学園長になるわけだし、俺が抱える事情を共有するつもりなんだろう。

 後は、あのクソ教師の顛末か。


「伊波君の事情はまだ娘には伝えてないのです。 最重要課題を優先したいので」


「ああ、皐月と美月がもう一度向き合うって奴ですか?」


「あの教師によって壊された姉妹の仲をもう一度修復しないといけなので」


 俺の詳しい事情は、まだ皐月には話していないそうだ。

 奴によって壊された皐月と美月の仲を修復する事を優先にしたいようだ。

 そんな話をしていると、叔母さんがお茶とお菓子を持って来てくれた。

 そのまま叔母さんは部屋を出ていく。


「さて、あの教師……殖栗あくりの末路だけど、教育委員会からの通達で殖栗あくりの教員資格の剥奪を確認したと同時にクビにしたわ。 ついでに勝手に学校の備品をゴミにした賠償額も請求したわ」


「あの机と椅子ですから、そこそこ高めですよね?」


「金庫の機能を持った机と暖房の機能を持った椅子だしね。 それでも20万くらいね。 前後したけど、クビは二週間後になるわ。 その間は謹慎って事になるけどね」


 さて、静香学園長から奴の顛末を聞いたが、まずは教員資格の剥奪。

 これは苦情を教育委員会に静香学園長と金沢先生が伝えてくれた模様。

 そして、それを確認した静香学園長はそのままクビにしたようだ。

 ただ、即クビではなく、二週間の謹慎の後、そのまま解雇となるようだ。

 あと、学校の用具を勝手に大型ごみに出した分の賠償金は20万のようだ。


「あの教師のバックにいる政治家が黙ってはいないかもしれないけど、それは明後日の開票結果次第かしらね」


「幸村情報では、その政治家は落選の可能性があると」


「あー、あの踝の息子さんね。 伊波君と友人だったのね」


「ええ、俺の事情を素直に打ち明けられる唯一の親友です。 オタクですが」


「なるほど」


 ただ、まだ殖栗あくりのバックにいる政治家は未だに健在だ。

 明後日の開票結果次第だが、まだ油断はならない。

 何らかの形で圧力を掛けて、なかった事にしようとねじ込んで来るからだ。


「一応、新しい担任は来ましたか? あと、皐月は……」


「ええ、ちゃんと着任したわ。 あと、皐月ちゃんの席の分も新たに用意したわ」


「良かったです。 皐月ちゃんの席のみを撤去したと聞いて怒りが湧いてきましたから」


「柚希義姉さんは、激怒すると怖いから抑えようね」


 マジか。

 柚希さん、怒ると怖いのか……。

 あまり柚希さんを怒らせないようにしないとな……。


「それで、今後の為に知っておきたいんだけど、伊波君って前の家族に比較されて迫害されたって本当なの?」


「ええ、柚希さんから聞いたと思いますが、今住んでいる家はその父の兄の家なんですよ。 俺から見れば叔父の家です」


「弟が優秀であるために、弟よりも劣る伊波君を迫害したそうです。 食事もパンの耳のみだったとか」


「虐待じゃない。 警察には?」


「あの家族がさせると思います? だから、叔父さんが俺を引き取ったんですよ」


 そう。

 あの家族が通報などさせないように根回ししているのは叔父さんも知っていた。

 だから、俺を養子縁組として引き取ったのだ。


「そういった事が未だに悪夢として夜寝ると見てしまうんですよね」


「そうなのね。 皐月ちゃんをがっちり守っている背景には、伊波君自身も比較されて迫害されてたのね」


「ええ、そうです」


「私も聞いた時はビックリしたのです。 でも、やり方は流石に頂けなかったのですが、皐月ちゃんの為に言ってくれた事には感謝したいのです」


 柚希さんからもそう言われた。

 多分、美月辺りが教えたのだろうか?

 ただ、流石に感情がコントロールできなかったのは反省材料だな。


「そろそろ時間ね。 じゃあ、義姉さん、帰りましょうか」


「ええ、じゃあ伊波君、時々皐月ちゃんが家にくるかもだけど迎え入れてあげてくださいね」


「もちろんです」


「じゃあ、これが今回の課題ね。 週明けの課題も皐月ちゃんや幸村君が持ってくるかもしれないからね」


 二人が帰る前に、静香学園長から今日の課題を渡された。

 停学中も課題だけはこなさないといけないか。


 まぁ、頑張ろうか。

 時折ゲームもすればいいし。


 そう考えながら、俺は柚希さんと静香学園長が帰って行くのを見届けたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

転生少年の青春奮闘記~家族に迫害された少年は双子の片割れを救いたい~ イズミント @izumint-789

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ