皐月は俺達と同じ人間なんだよ!(美月視点)

「え、これは……!?」


 私、大谷おおたに 美月みつきが教室に入った瞬間、信じられない光景を見た。

 双子の皐月さつきちゃんの席があるはずの場所から、机や椅子がなかったのだ。

 多数のクラスメイトが担任の殖栗あくりという教師に詰め寄った時の声を聞いた所、その殖栗が皐月ちゃんの机と椅子をゴミとして出したらしい。

 余りにも酷すぎて、私は動けなかった。


 私は皐月ちゃんと違い、何でも出来るとして殖栗あくり先生達に気に入られた。

 一方で皐月ちゃんは、彼らに出来損ないの無能として蔑んだ。

 それにより、私は皐月ちゃんから憎しみを向けられ、距離を置かれる羽目になった。

 私は皐月ちゃんの事をそんな風に思ってはいない。

 そう皐月ちゃんに言いたかった。

 しかし、その度に殖栗あくり先生に阻まれ、無理やり押し退けられた。


 あの先生に気に入られてからは、私のストレスは高まる一方だった。

 両親にも相談したが、あの先生に先を越されいい流れがなかなか掴めなかった。


 そして、皐月ちゃん達が教室に入ろうとしたら、皐月ちゃんだけ教室から追放するかのように突き飛ばされ、先生は皐月ちゃんに暴言を吐いた。

 皐月ちゃんは泣き崩れ、先生はほくそ笑む。

 クラスメイトが非難しようとも、相手にしない。

 何故ならあの先生は、歪んだ優生思想を抱えていたからだ。

 

 そんな先生の本音を聞いた私も流石に許せなかった。

 皐月ちゃんは皐月ちゃんという人間であって、私のクローンじゃない。

 なのに、あの先生は……!


 私は先生に怒りをぶつけようとしたが、それよりも先に動いた子がいた。


「ふざ……けんじゃねぇぇぇえっ!!!」


「ぐがあぁぁっ!?」


 クラスメイトの伊波いなみ 光輝こうき君だった。

 彼は、先生の首を掴んだまま、勢いをつけて壁に叩きつけたのだ。

 私を始め、みんなが驚く。

 皐月ちゃんも。


「てめえは、どこまで皐月を傷つけば気が済むんだ!」


「ぐ、が……、何を、言ってる……。 あの無能おんなは、美月君のクローンであるべきだ 。 それの何が悪い?」


「皐月はな! 美月のクローンなんかじゃねえんだよ! 俺達と同じ人間なんだよ!」


 私が言いたかった事。

 皐月ちゃんは私のクローンではない事を伊波君は言ってくれた。


「皐月にだってな! 俺やみんなにはない個性があるんだよ! 人間みんな、個性がある生き物だ! てめえはそれを……、美月と比較して皐月の個性を否定しやがって!」


 涙が止まらない。

 ほとんど私が言いたかった事を全て、伊波君が言っている。

 やり方は不味いけど、言ってる事は間違ってない。


「ゆ、優秀な人類を残すために、個性など、不要だ……。 無能は、排除されるか優秀な人類の人形に……なるべきなのだ」


「そう言ってるてめぇが、人間じゃねぇよ!」


「ぐあああっ!」


 伊波君の手に力が入る。

 先生の首が絞まっていく。

 流石に不味い!

 止めないと……!


「光輝、もういい。 いくら退学しても構わない形とはいえ、これ以上はヤバい。 殺人犯になる」


「ちっ!」


(えっ!?)


 同じクラスメイトのくるぶし 幸村ゆきむら君が伊波君を止めた。

 しかし、おかしな単語を聞いた。

 退学?

 彼は退学をするつもりで、こんな事を!?

 確かに問題を起こせば、退学にはなる可能性はあるけど、皐月ちゃんを助ける為に敢えて自らを……!?

 

「貴様、こんな事をして只では……」


「只では済まないのは貴方ですよ、殖栗あくり先生?」


 先生が伊波君を睨んでいると、伊波君の背後から別の声が聞こえた。


「うーん、流石に間に合わなかったかぁ」


 教室に入ったその人は、その状況を見てこう嘆いた。

 間違いない、あの人は。


「静香叔母様?」


 不意に私はそう口にした。


「部外者が何故ここに来ている? ここは関係者以外は……」


「あら、私は関係者ですよ。 今日からここの学園長に就任したのですから」


「なん、だと……!?」


 先生は静香叔母様がここ九重学園の学園長に就任すると知り、驚いていた。


「さて、殖栗あくり先生。 貴方は今すぐ生徒指導室にて待機してもらいます。 処分は数時間後に伝えますから」


「連れて行くぞ!」


「「ははっ!」」


「は、離せ! 私は間違ってない! 私の教育は正しいんだぁぁぁ!」


 絶叫しながら、静香叔母様の護衛によって先生は連行された。

 未だに間違いを認めないのは、歪んだ形の優生思想の末路だろうね。


「他校で問題を起こしておいて、よく言うわね。 さて、伊波君……だったかしら?」


「はい」


「一部始終、見ちゃったし学園長室に来てくれる?」


「分かりました。 退学にするなどの判断は任せますよ」


「うーん、そんなあっさり言わなくても……。 後の子は視聴覚室で自習しててね」


 クラスメイトのみんなは、呆然としている。

 やはり伊波君は、退学覚悟でやったんだ。

 静香叔母様も、そんなあっさり言う伊波君に苦笑し、一緒に学園長室に連れて行ったみたいだ。


 残された私達は、何とか重い足を動かして視聴覚室に着いたが二限目まで何も手を付けられなかった。

 

 伊波君は、退学になるのだろうか?

 そうなったら、皐月ちゃんは?

 それを考えてしまう為に、集中出来なかったのだ。


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