殖栗の暴挙、そして……

「いよいよ今日か」


「ああ、そうだな。 新しい学園長は厳重な護衛を連れて学園長室の椅子に座るらしい」


 あれから翌日。

 同じように皐月と合流し、途中で幸村と委員長と合流して学園に向かう。

 今日から静香という人が学園長に就任するのだ。


「これで困るのは殖栗あくり達の歪んだ優生思想の者達だよね」


「ああ、多数の者からの通報の甲斐があって、奴らのSNSも垢バンされたしな。 相変わらず酷い主張で見るに堪えなかったらしい」


「流石に看過できなかったか」


「私としては良かったよ。 お母さんからも言われたけどそろそろ美月と向き合わないといけないし」


「そうか……」


 道中で俺達四人はそんな話をしていた。

 どうやら、殖栗あくり達の歪んだ優生思想を抱えた奴らのSNSアカウントが立て続けて削除されているようだ。

 幸村が取り巻き達と共に通報してくれていたようだ。

 皐月もそれに少し安心しているようだが、彼女には別の課題がある。

 それは、双子の片割れの美月と向き合う事だ。

 現在、奴によって美月と比較し、蔑まれていた皐月は、奴のお気に入りの美月を憎み、距離を置いている。

 だが、当の美月はそのつもりはなく、逆に皐月に申し訳ないと思っている。

 これは、今日の登校前に柚希さんが教えてくれた話だし、皐月自身も柚希さんに言われたそうだ。


「ただ、これによって殖栗あくりがどんな行動をしてくるかは分からないからな。 気を付けた方がいいかもな」


「そうだな」


「他のクラスメイトの子達にも共有しておいたほうがいいんじゃない?」


「昨日、メールで送っておいたぞ」


「抜かりないね、幸村君は」


 それにもう一つ懸念がある。

 アカウントが消されたり、奴らのバックの政治家が落選の危機になる等、追い詰められている殖栗あくり達がどういう行動を取ってくるか、分からないからだ。

 特に殖栗あくりは皐月を無能の女生徒としてこの世から消したがってる可能性がある。

 クラスメイトが守ってくれるとは言え、奴らが暴走すると厳しいだろう。

 幸村が一応、メールで伝えてくれたようだが、それでも不安だ。


「さて、もうすぐ学園だな」


「光輝や俺が睨みを利かせてるから、周りの奴らは何もしてこないな」


「問題は殖栗あくりか」


 学園内に入り、幸村とそう言いながら教室に近づく。


「何だ?」


「騒がしいな」


「何があったのかしら?」


 ただ事じゃない。

 そう感じた俺達は、一目散に教室に向かう。


「どうしたんだよ、みんな!」


 幸村が先頭になって教室に入り、それに俺達が続く。

 しかし、皐月が入ろうとしたら……。


「きゃあっ!?」


「皐月さん!?」


殖栗あくりっ! てめぇは……!!」


 突如、奴が……殖栗あくりが皐月を突き飛ばした。

 俺も幸村も委員長も信じられない光景に、怒りを露にする。

 

「無能が私の教室に入って来るんじゃない!」


「何言ってやがる!!」


 殖栗あくりが皐月を見下しながら、そう暴言を吐く。

 幸村が怒りを携えて食って掛かる。


「伊波君、委員長!!」


「どうしたの、阿波あわさん!!


 そこに、阿波あわさんというクラスメイトの女子が委員長と俺に話しかけて来た。

 委員長は何があったのかと彼女に聞く。

 その後の彼女から聞いた内容は……、とても信じられない内容だった。


殖栗あくりが……、皐月さんの……席を撤去して……、椅子と机は……大型ごみ扱いにされて……」


「なん……だと……!?」


 なんと、奴が皐月の机と椅子を撤去しやがったのだ。

 よく見れば、皐月の席だった場所はポッカリ開いている。

 皐月が美月より劣るだけでここまでするのか……!


「机の中にあった皐月さんの教科書類も……ゴミ扱いにして捨てて……」


「当然だ! 我が教室に無能な生徒は要らん! そこの女は美月くんのクローンでなければならんのにな!!」


殖栗あくり!! あんたは……!!」


 殖栗あくりの暴言に委員長も激怒する。

 皐月はショックでへたり込んだまま、泣き出した。

 クラスメイトの数人の女子が皐月に駆け寄って何とか宥める。

 男子の方も奴を睨んでるが、殖栗あくり当人はどこ吹く風だ。

 そこで、俺は……何かがキレた感覚になり……。


「ふざ……けんじゃねぇぇぇえっ!!!」


「ぐがあぁぁっ!?」


「光輝!?」


 殖栗あくりの首を掴んだまま教室の壁際まで突進し、奴を壁に叩きつけていた。


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