柚希さんに少し過去を打ち明けた
今日の授業が無事に終わり、四人で下校する。
雑談しながら通学路を歩いていくと、柚希さんが見えて来た。
「お母さん」
「皐月ちゃん、今日もご苦労様なのです」
皐月が一目散に柚希さんに向けて走っていく。
「じゃあ、俺達はここで」
「ああ、また明日な」
「明日から流れが変わるといいけどね。 新しい学園長が就任するから。 じゃあ、またね伊波君」
そして幸村と委員長は、ここで別れて別の道で帰宅するようだ。
しかし、ホントにあいつら仲がいいよな。
「君が伊波君かな?」
「あ、はい」
俺の背後から誰かが声を掛けて来た。
慌てて振り向くと、優しそうな容姿をしたイケメンの男性だった。
いや、柚希さんもそうだけどこの人も若くないか?
「いきなり声を掛けて悪かったね。 私は
「皐月たちのお父さんですか?」
「そうだ」
声を掛けて来た男性は、皐月と美月の父親である真人さんだった。
つまり柚希さんの夫でもある。
「妻の柚希から君の事を聞いてね。 あの歪んだ思想を持った教師の暴力から皐月を庇ったんだって」
「ええ、奴の考えは俺にとっても許せませんでしたから」
「皐月を守ってくれてありがとう。 父親としてもお礼を言っておきたかった」
「いえ……」
やはり柚希さんから俺が皐月を
父親として自らお礼を言っておきたかったようだ。
「じゃあ、まーくん。 皐月ちゃんをお願いしますね」
「分かった。 じゃあ皐月、行こうか」
「うん、お父さん。 伊波君もまた明日ね」
「ああ、またな」
柚希さんと交代するかのように、皐月は真人さんと一緒に帰って行く。
この場に残ったのは、俺と柚希さん。
今は、いの一番に俺の違和感に気付いたこの人にだけはある程度、打ち明ける事にしたのだ。
「伊波君、日に日に顔色が悪くなってる理由なのですが、何があったのです?」
「悪夢を見るようになりまして……。 実は今の家に住む前に本当の家族がいたのですが……」
柚希さんに俺の抱える一部の過去を打ち明け始めた。
俺の話を真剣になって聞いていく柚希さん。
俺に本当の家族がいる事は初めて知ったようだ。
「その家族に迫害されたんです」
「迫害……ですか!?」
「はい。 俺より優秀だった弟を両親は溺愛し、俺は無能として差別されただけでなくろくに食事も与えてもらえませんでした。 パンの耳ばかりでしたね」
「酷すぎます。 出来が悪いからってそこまでするのですか?」
思う事があったのか、俺が迫害を受けたという話に柚希さんは怒りを露にした。
「あの家族は、優秀な者でしか家族とは認めない。 そういう考えでした」
「まるで皐月ちゃんを見下したあの
「今となっては奴と前の家族は繋がってるんじゃと思ってますがね。 幸いその父親の兄である人が俺を引き取ってくれて何とか人並みの生活をすることができましたが」
「雪菜ちゃんのお父さんですね?」
「そうです。 雪菜も俺を慕ってくれてますし。 とはいえ、あの迫害は今でも悪夢として蘇ってますが」
嘘は言っていない。
昨日の夜はその毒家族の迫害が夢として出て来たのだから。
雪菜との添い寝のおかげで悪夢は見なかったが、一時しのぎに過ぎないのは理解している。
「まぁ、俺の抱えてるのはこんな感じ……ですね」
「そうなのですね。 話してくれてありがとうなのです」
話すだけ話したら、どういう事かスッキリした感じがした。
ある程度話を真剣に聞いてくれる相手なら、打ち明けるべきなのだろうな。
柚希さんのように。
「夫の真人さんも、伊波君みたいに母親に迫害を受けた上で山に捨てられたのです。 それに似ていそうな感じがしたので」
「真人さんがですか? 捨てられたって……!?」
「あの人のお父さんはそれを初めて知ったそうですよ。 私の祖父から聞いて離婚を決意し、再婚したのです。 おかげで今は姉妹にもなってる静香ちゃんと一緒になったようですし」
「あ、友人から聞いた新たに学園長になるっていう……」
「幸村君もそういう情報を手に入れるのが早いのですね。 そうなのです。 彼女は楠の本家の当主である私の兄と結婚をしてるのです」
柚希さんは幸村の情報収集能力の高さに呆れつつも、静香という人が九重学園の新たな学園長に明日就任する事は否定しなかった。
「あ、そろそろ時間なのです。 明日も皐月ちゃんをお願いしますね」
「はい、分かりました」
柚希さんに話した事で多少身軽になった。
明日も皐月の事を頼まれたので、引き受ける事を約束して柚希さんと別れた。
だが、その明日の日に奴が……
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