現世の悪夢と幸村からの最新情報

 また、夢を見た……。


『あんた、兄の癖してこんな事すら出来ないの?』


『弟に比べると出来損ないだな』


『こんな兄を持つこと自体が恥ずかしいよ』


『無能のあんたはパンの耳で十分よ』


『無能なのにエサをやれるだけでもありがたく思うんだな』


 今度は現世での実家族による差別と迫害だ。

 俺は、優秀な弟と比較され、無能とされた上で食事もろくに与えられなかった。

 ほぼ、パンの耳ばかり。

 そんな光景を見てショックで気を失う寸前で、俺の視界は真っ白になる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「うあぁっ!!」


 あまりの悪夢で声を上げながら飛び起きる。

  

「はぁ、はぁ……! ま、また……悪夢を見ちまった……」


 悪夢を見たせいで、全身に倦怠感が起こっていた。

 そして、全身が汗だくになり、寝間着……特に上半身がびしょ濡れになっている。


「うぐっ!?」


 さらに何かが込み上げる感覚に陥り、なるべく足音を立てずにといトイレに急ぐ。


「うげぇぇぇっ!!」


 トイレに着き、便器に顔を突っ込んだ瞬間、俺は嘔吐した。


「はぁ、はぁ……、くそっ!」


 食ったもの全て吐き出してしまったからか、さらに倦怠感に陥った。

 やはり、雪菜がいないと悪夢を見続けちまうが、いつまでも雪菜に頼る訳にはいかない。

 洗面所で顔を洗い、口を濯いでから再度部屋に戻る。


「お兄ちゃん」


「雪菜?」


 俺の部屋の前で雪菜が待っていた。

 枕を抱え込んで。


「眠れないの?」


「ああ、さっき嫌な夢を見たから……」


「じゃあ、また一緒に寝ようよ。 そうすればお兄ちゃんは寝られるよね」


「あ、あぁ」


 さっきの悪夢によって嘔吐し、精神的にも肉体的にもダメージを受けている現状では、雪菜の要求を受け入れる以外の選択肢などなかった。

 雪菜を俺の部屋に招き、一緒に眠った。

 やはり雪菜の温もりのおかげか、悪夢は見なかったようだが、さっきも言ったようにいつまでも雪菜に甘える訳にはいかない。


 さて、どうしたものか……。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌朝。

 雪菜と一緒に目を覚まし、顔を洗って朝食を摂り、登校の準備をしてる最中にスマホの音が鳴った。

 通知からメールが来ていたようだ。


(メールの相手は幸村か。 わざわざメールで来るという事は……?)


 多分重要な事項だろう。

 あいつは重要な事項に関してはSNSで報告をせず、メールで送ってくる。


「内容は……と」


 メールの内容を見てみると、楠家の本家の当主の妻が今週の金曜日に学園長に就任するという内容だった。

 幸村曰く、その人は教員資格も持っているようで、いつかは九重学園を手伝う予定だったという。

 同時に九重家は、どうも殖栗あくりのバックにいる政治家の取り巻きによって消されていたようだ。

 本家の目を欺かせてまで、自分達の思想に染めさせるために、九重家が邪魔だったのだろう。

 さらに、失踪した学園長は遺体となって発見されたらしい。


「最悪な事をしてくれるな。 奴のバックの政治家もここの地区で立候補してるんだったか」


 そう。

 殖栗あくりのバックにいる政治家は、俺がいる地区の選挙区で立候補している。

 つまり、踝家の分家の者と楠家の別の分家の者と同じ選挙区だ。


「幸い、奴のバックにいる政治家はかなり不利な位置にあると……。 これで何とかなればいいけどな」


 ただ、幸村情報ではその政治家は今回は落選の可能性が高いという。

 やはり、優生思想が歪んでいると理解してくれている人たちが多いようだ。

 奴の支持者は九重学園の周辺の住民のみらしい。


「風向きは変わってきてるか……。 さて、待ち合わせの場所に行きますか」


「おにいちゃーん、そろそろ行くよー」


「おー、今行く!」


 丁度雪菜が声を掛けて来たので、鞄を持ってすぐに部屋を出る。

 さて、皐月にも伝えておいた方がいいかな?

 それとも、もう伝わってるのだろうか?

 柚希さんにも聞いてみるか。


 とにかくまずは待ち合わせ場所に向かわないとな。

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