幕間~その日の大谷家~

「そうか、皐月と美月はまだ……」


「やはり、あの殖栗あくりという教師を何とかしないとダメなのです。 今日は伊波君という皐月ちゃんのクラスメイトの男の子のおかげで無事に過ごせたのですが……」


「ああ、彼か。 皐月を奴の暴力から庇ったと言う……」


 その日の夜の大谷家。

 皐月達の母親の大谷おおたに 柚希ゆずきは、仕事から帰って来た父親の大谷おおたに 真人まさとと話をしていた。

 皐月と美月は、食事後各部屋に籠っている。

 二人は、皐月を優生思想に染まってる問題の教師の殖栗あくりの暴力から庇った少年、伊波いなみ 光輝こうきについての話題に入っていた。


「柚希は、彼をどう見ている?」


「皐月ちゃんを大事にしてくれてるので、信頼できるのです。 実際に話をしてるので。 でも……」


「ん?」


「あの子もどこかで無理をしていそうな気がするのです」


「無理をしている?」


「はい。 まるで何かを抱えてるような……そんな気がするのです」


 柚希は、光輝についてそう言った。

 彼に関して、絶大の信頼を置いてはいるが、彼自身もどこか無理をしているのではと感じていた。

 実際に光輝は、本来の家族から無能と蔑まれており、それに激怒した親戚の家族によって引き取られているのだ。

 だが、なるべく皐月の前ではそういう様子を見せないようにしているのだが、柚希はその違和感に気付いたようだ。


「どんな感じのものだと思う?」


「かつてのまーくんみたいな感じ……ですね」


「かつての俺……か。 確かに昔の俺はあの母親と義姉によって山に捨てられたり、嘘告白されたりしたが……、彼もそれに似た類いかそれ以上って事か」


 真人がどんな感じなのかと柚希に聞いた所、彼女はかつての真人みたいな感じだと答える。

 真人自身も母親と義姉に無能と見下された挙げ句に山に捨てられたり、二人と繋がっていた女からの嘘告白の被害に遭ったのだ。

 そのおかげで柚希と出会い、今に至るのだが。


「彼がもし家族からそういう迫害を受けた可能性があるなら、皐月を庇う行動にも納得がいくな。 他人事とは思えないのだろう」


「そうだと思うのです。 ママ友さん達によれば、今の家族は義理の家族みたいなので」


「義理の家族か」


 ここまでの柚希からの話を聞いた真人は、光輝は自分と同じように家族から迫害を受けたのではと考えていたが、直後の柚希の発言から可能性として高まった。


「それで、彼をどうするんだ?」


「今はもう暫く様子を見るのです。 幸いにもくるぶし財閥の現当主の息子さんが伊波君の友達ですから」


「ああ、幸村君だったか。 彼も動いてくれてるのか」


 光輝の事をどうするのかと聞いた真人だが、柚希は幸村が光輝の友達である事から暫く様子を見るという。

 幸村も動いているので、彼にも頼る事になりそうだから。


「もうすぐ静香が今は不在になってる学園長の椅子に座るみたいだし、週末には国の選挙の本投票だからいい結果が得られると思うが……」


「そうあって欲しいのです。 九重学園の周りだけは住民とは思えない人達が多いから」


 真人の妹かつ現在は柚希にとっても義姉妹である静香がもうすぐ九重学園の学園長の椅子に座る事と、国の選挙の本投票が週末にあるため、これで流れが変わる事を真人は期待している。

 柚希も現在の九重学園の周りがおかしな住民ばかりなのを嘆きつつ、流れが変わる事を祈った。


「伊波君も皐月ちゃんも美月ちゃんも心配ですから、私が様子をしっかり見ておきます」


「頼む。 明日は和人と情報交換してくるから」


 明日も皐月と光輝が一緒に登校する為、柚希は皐月と美月以外にも光輝の様子も見ておくという。

 真人は、明日は楠本家の当主と話をする為、三人の様子を柚希に改めて頼んだ。


 夫婦が話し合いを終えた時は、既に夜になっていた。

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