理想の授業風景と皐月との下校

「よし、私が代わりに君たちの授業を受け持とう」


 一限目の授業が始まり、金沢先生が美月と門田を一応視聴覚室に連れてきたのを確認してから、今回の担当代理の教師による授業が行われた。

 まぁ、殖栗あくりの授業は美月と門田に向けてしか教える気はなく、俺達はシカトだからな。

 それで何度も揉めた事は忘れていない。

 幸村だって、財閥のネットワークで奴の行いをしっかり拡散しているが、政治家が相手だと今は分が悪いみたいだ。


(まぁ、踝分家や楠の分家から政治家が誕生するみたいだし、奴の圧力をはね除けられたら皐月も安心できるだろうな)


 ただ、幸村が言うには楠の分家と踝の分家から政治家が誕生するという話だ。

 その人達が議席を獲得すれば、殖栗の知人の政治家の圧力をはね除けられると思う。

 そうなれば皐月も多少は安心できるだろう。

 そんな事を考えながら、俺は授業に集中していた。


(やはり奴よりは分かりやすいな)


 今の教師がやっている授業は数学。

 殖栗の担当のひとつだが、やはり奴より分かりやすくすんなり頭に入るし、解らない事があればすぐに質問を受け付けてくれる。

 奴だったら『こんな簡単なものが解らないのか! やはり無能に教えるのは時間の無駄だ!』と言って置いてきぼりにしていたからな。

 だから、大半のクラスメイトは奴が嫌いなのだ。

 特に皐月の件で大半のクラスメイトのヘイトをかった訳だしな。

 それでも奴と同じ思想を抱いている政治家がバックにいるため、図太く居座る事が出来ているようだ。


「よし、一限目の授業はここまでだ。 次の授業は福井先生の歴史だな。 ならば教室に戻っても大丈夫だろう」


 一限目終了のチャイムが鳴り、代理の教師が授業の終わりを告げる。

 次の授業は福井先生の歴史なので、本来の教室に戻れる。

 みんなが一斉に本来の教室に戻っていく。


「皐月はどうだった? 奴より分かりやすかったか?」


「うん。 あいつよりはかなり分かりやすく教えてくれた。 自然と勉強に集中できたよ」


「分からない所を質問も受け付けてくれるからね。 殖栗あくりさえいなければみんなまともに授業を受けれるんだよ」


「奴と同じ優生思想を抱いている政治家の圧力のせいで、奴を辞めさせられないからな。 だけど、もうすぐそれもなくなるだろうぜ」


「確か、週末には本投票が行われるんだっけ、選挙の」


「そうさ。 国の選挙には楠の分家と踝の分家から政治家として立候補してるからな」


「週末の開票結果が楽しみだな」


「そうだね」


 皐月の隣に歩いている委員長こと貝塚かいづか 愛奈あいなという眼鏡っ子も殖栗あくりの授業より分かりやすいと言った。

 幸村も奴のバックが政治家のせいで教師を辞めさせられない事に腹を立ててるが、今は選挙の期日前投票中だ。

 来週の結果を期待しながら俺達は教室に戻る。


 幸い、殖栗あくりとは今日の授業では顔を見る事がなかったので、皐月も安心して授業を受ける事が出来たようだ。

 それでも美月との溝は開いたままなのだが……。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「じゃあ、帰ろうか皐月」


「うん」


「途中までは俺も同行するぞ」


「私も」


「頼むぜ、幸村に委員長」


 放課後を無事に迎え、俺は皐月を送るために一緒に下校する。

 そこに幸村と委員長も一緒になり、途中まで四人で下校となった。


「学校周りは奴による優生思想に染まった住民が多いからな」


「本当に酷いよね。 双子だけど片方が出来が悪いからって……」


「この周辺の世間は、双子の片割れは優秀な方のクローンにならなければって演説してたな。 酷いったらありゃしねぇよ」


 幸村と委員長と俺が皐月を守るようにして、周囲を睨みつけながら通学路を通る。

 特に俺の睨みが怖いのか、学校周辺の住民は一目散に逃げていく。


「すごいね、伊波君。 キミが睨んだ人物は逃げてるよ。 私一人だったら陰口を叩かれてたよ」


「少しでも強そうな者に睨まれると何もできないってか」


「まぁ、こいつは売られた喧嘩はトイチで買い取る主義だからな。 過去に陰口叩いた奴の胸倉を掴んでは投げ捨てたからな」


「いらん事言ってんじゃねーよ、幸村」


「次に陰口を叩いた人たちはとんでもない目に遭いそうね」


 皐月が俺に睨まれた人物が一目散に逃げてる様子を見て感心していた。

 そこに幸村が余計な事を言ってくれた。

 確かに中学生の時にそれをした事はあるが……。

 奴らはそれに対する恐怖心があるのだろうか。


「あ、皐月ちゃん」


「お母さん」


「柚希さん、こんばんは」


 学校周りのエリアを抜けて、暫く歩いてると柚希さんが迎えに来たようだ。

 皐月も柚希さんを見て安心しているみたいだ。


「今日はどうだったのです?」


「伊波君のおかげで無事に終わったよ」


「それはよかったのです」


 まだ家の中じゃないので、柚希さんと皐月の母娘の会話は程々に済ませているようだ。

 帰ってからじっくりと話すつもりなのだろう。


「それじゃあ、俺はここで」


「私も。 また明日ね」


「ああ、またな。 委員長に幸村」


 柚希さんと皐月が一緒になったのを見て、幸村と委員長は別の道を通って帰って行った。


「幸村君って、あの踝財閥の息子さんなのです?」


「ええ、あいつはクラス内で影響力を持つ男ですが、良い奴ですよ」


「彼も率先して動いてくれてるよ」


「そうなのですか」


 少しの間、柚希さんと皐月とで話をした。

 さすがに柚希さんも幸村が踝財閥の子息だと知っていたか。

 それでもいい奴だし、これからも頼りにしたいとは思うがね。


「それじゃあ、俺はこの辺で」


「はいです。 ありがとうございます。 明日も皐月ちゃんをお願いしますね」


「ええ、明日もこの辺りで。 皐月、またな」


「うん、またね」


 明日も皐月を頼むと柚希さんから言われたので引き受ける事にした。

 そして、明日も今の場所で待ち合わせすると約束して皐月と別れて自分の住む家に戻っていった。

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