第八十五話 思わぬ弱点?
「んじゃ、オレはそろそろ帰るわ」
夕陽も沈み、辺りはすっかり闇夜に包まれている。
不知火は持ってきていた酒瓶の中を空にすると、満足した様子で立ち上がった。
「朔夜様、これからも主君諸共、どうぞ宜しくお願い致しますね!」
「致しますね!」
「あぁ」
小妖怪たちにキラキラした目で見上げられた朔夜は、そのまなざしに込められた意味が分からず不思議に思いながらも、コクリと頷いた。
小妖怪たちは、主君と初めて対等な盃を交わした相手として、すっかり朔夜のことを尊敬しているらしい。
「そんじゃあ、オレたちも帰るか」
五月雨神社に帰っていった不知火たちを見送った朔夜は、真白に声を掛けると、羽織を翻しながら足を進める。
「……って、おい。何処行く気だよ」
「何処って……家だろ」
真白の突っ込みに対して“決まってるだろ?”とでも言いたげな視線を向ける朔夜。
「そっちは家とは逆方向だ」
「……あぁ、分かってる。こっちだったな」
左方向に向かおうとしていた朔夜は、今度は右方向に進もうとする。
「って、そっちでもねーよ! 家までは直進だ! まさかお前……妖怪化すると方向音痴になんのかよ」
「……俺は迷子になる気もなければ、方向音痴でもない」
朔夜はムッとした顔で反論する。
しかしさっきの行動は、どう考えてもふざけてやっていたわけではない。真面目に帰宅しようとして歩き出していた。
しかし森の中で妖怪のもとに向かう時には、その気配を辿って迷うことなく辿り着いていた。多分、そういう場合には道に迷うこともないのだろう。
「……家はこっちだ」
真白が先を歩けば、朔夜も大人しく後を付いてくる。
真白は、これまで朔夜が方向音痴だと感じたことは一度もない。
――ということは、妖怪化すると方向感覚が鈍るということだろうか? それとも妖怪化した身体に慣れていないため、家までの道のりが分かっていないだけなのか……それは定かではないが、真白は確信していた。
見目やその雰囲気は全く異なれど、ひどく頼もしいのに、このどこか放っておけない雰囲気を放つ存在は、やはり朔夜だな、と。
「……帰ったら店の仕込みもしなくちゃならないんだろ。早く帰るぞ」
「……あぁ」
真白がチラリと振り返れば、どことなくムスっとしたような、不貞腐れたような顔をしている朔夜の顔が見えた。その端正な
妖怪化した時はいつも飄々としている朔夜の意外な一面を知ってしまった真白は、何だか得をしたような気持ちになり、朔夜に見られないよう顔を前に向けながら、微かに口許を緩めていた。
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