第八十二話 浮上する疑惑
真白から受け取った酒を口にした朔夜は、再び刀を構える。
「――
朔夜が呟けば、刀身を燃え盛る炎が纏った。そのまま妖怪に突っ込んでいった朔夜は、妖怪の左肩から脇腹にかけて素早く刀を振るう。
「ゲヘッ、オレに刀は効かなっ、…ゴホッ……!」
薄気味悪い笑みを湛えていた妖怪の表情が、崩れた。
身体から血を噴き出した妖怪は、自身の手に付いた赤黒い鮮血を見て、何が起こったのか分からないといった表情をしている。
「な、何だこれ……何で、オレの身体が、……」
「これで終いだ」
朔夜はもう一度刀を振るう。刀身から燃え移った真っ赤な炎は妖怪をみるみる飲み込んでいく。
「うああぁっっ、何故っ、何故だ……‼ 授かった力は、授かった力は、本物だ……‼ オレは、オレはこんなところでっ……――」
妖怪は意味の分からない言葉を吐き出しながら、燃え尽きた。その場に積もった灰が、夏の陽光を孕んだ生温い風にのってパラパラと飛んでいく。
朔夜と妖怪との攻防を呆然としたまま見入っていた葵は、黙ってこの場を立ち去ろうとしている朔夜に気づき、慌てて声を張った。
「っ、待て! お前は……っ、一体何者なんだ」
「……じゃあな」
しかし朔夜はその問いに答えることなく、森の奥へと姿を消した。気づけば、真白や不知火も忽然と姿をくらませている。
葵は、朔夜の背中を追いかけることはしなかった。静かに立ち竦んだまま、ポツリと、独り言を吐き出すような声音で呟く。
「もしかして、お前は……」
脳裏を過ぎった考えを、瞼の裏に浮かび上がった気の抜けるような笑みを浮かべた少年の顔を――
「帰るぞ、時雨」
「……うん、了解」
葵の後ろに黙って控えていた時雨は、何を考えているのか読めない笑みを浮かべたまま頷いて返す。
葵はもう一度森の奥へと視線をやるが、直ぐに逸らした。少しだけ後ろ髪を引かれながらも、二人は再び町内の見回りに繰り出したのだった。
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