第七十八話 原因不明の狂暴化
朔夜が手土産に持ってきた氷菓子を食べてまったりしていたところで、穏やかな表情から一変して真面目な顔つきになった五月雨様が、居住まいを正して朔夜に向き合った。
「お前さん、ここ最近、此処らで起きている事件のことは知っておるか?」
「事件、ですか?」
「神や妖たちが荒ぶっているというものじゃ」
「神様や妖たちが……? いえ、聞いたことがないです。どんな事件なんですか?」
初めて耳にした情報から不穏な気配を感じ取った朔夜は、詳しい話を聞こうと五月雨様にその続きを尋ねる。
「うむ。ワシが風の噂で耳にした話は二つじゃ。月詠町に住まう小さき神、それに妖が、突如暴れ出したらしい」
「その暴れ出したっていうのは、具体的にはどういう状態になったんですか?」
「どちらも我を忘れて、参拝者に手を出したり、妖の方は通行人に襲い掛かろうとしたらしい。まぁその妖の方は、どこかの勇敢な若者が止めに入ったおかげで、通行人に被害はなかったらしいがのぅ」
“勇敢な若者”という言葉で、朔夜の脳裏に葵の顔が浮かび上がった。
妖怪を滅するためにこの町に来た葵なら、妖が関わっているこの件について、既に詳しい内情を把握している可能性は高いだろう、
「といっても参拝客の方も軽症で済み、大事には至らなかったようじゃがな」
「そうなんですね、良かった。……あの、それじゃあ、その神様たちは……」
「今は正気を取り戻して落ち着いているようじゃな。しかしその原因は未だ不明らしい」
五月雨様は知っている話を伝え終えるや否や、真面目な顔をふわりと崩して、朔夜に頼みごとをする。
「朔夜や。お主、その原因を突き止めてはくれんか?」
「……えっと、「はぁ!? 何で俺らが……!」
朔夜の言葉に被さるようにして反応を示したのは、真白だった。
ただ単純に面倒だというのもあるが、狂暴化している神や妖怪と出くわして、朔夜の身に何かあっては堪ったものじゃないと考えたのだ。
「しかしのぅ、このままでは被害が拡大するかもしれんぞ? ワシの身にも何かあったらと思うと、おちおちうたた寝もできはせんよ」
さめざめと泣きまねをする五月雨様に、真白は口許を引き攣らせてプルプルと震えている。神様相手に暴言を吐くのはさすがにと抑えてはいるようだが、内心では「(こんのクソジジイ……)」と悪態吐きまくりだ。
「……そうですよね。分かりました! 僕たちで原因を調べてみますね」
「っ、……はぁ。結局こうなるのかよ」
決意を固めた顔でグッと拳を握っている朔夜と、深い溜め息を吐き出している真白に、五月雨様はホケホケと笑っている。
「ホッホッ、頼りになるのぅ。……そうじゃ、良ければ不知火たちも連れて行ってくれんか。何かの役に立つやもしれんからのぅ」
「はぁ? 何でオレがんなことしなくちゃならねーんだよ」
依然として板間の上でゴロゴロとしていた不知火は、何故自分が付いて行かねばならないのかと直ぐさま反論する。
「お前たち、誰のおかげで毎夜酒を飲んで過ごせていると思うとるんじゃ?」
朗らかに微笑んでいるはずなのに、どこか有無を言わせぬオーラを感じる五月雨様を前にして――不知火は面倒くさそうに頭を掻きながら「っ、わぁったよ! 行けばいいんだろ、行けば!」と半ば投げやりに了承をする。
「ホッホッ、頑張るんじゃぞ」
こうして朔夜と真白は、不知火と小妖怪たちと共に、神や妖が突如狂暴化するという事件の謎を探ることになったのだ。
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