第四十八話 初めての共闘
「クッ……何だお前は! どこのシマの者だ!」
「……それはこっちの台詞だ」
突然現れた鬼の妖は、その存在感もさることながら、圧倒的な強さで妖怪たちを次々に斬り伏せていった。
葵も向かってくる妖怪を相手取りながら、鬼の妖の強さを目にして目を瞠っている。
鬼の妖が、先ほど斬り捨てた蜘蛛妖怪が仕掛けていた糸に足を取られ、その動きを止める。その好機を見逃さず、一つ目の妖怪が背後から斬りかかってきた。
しかし、何処からか飛んできた風の刃が、その首を斬り落とす。
一つ目の妖怪は、鬼の妖に傷一つ付けられぬまま地面に倒れた。
「……ったく」
鬼の妖は、その風の刃が何処から飛んできたのか直ぐに分かったようだ。近くの木の上を見上げて、小さく呆れた笑みをこぼした。
「っ、何故だ。ついさっきまで、我らが圧倒的に優勢だったはずなのに……!」
狐目の妖怪が、悲鳴じみた声を漏らした。その顔色は蒼ざめているようにも見える。
「……月に叢雲、花に風」
鬼の妖が、刀の柄を肩に掛けながら言う。
「――物事が上手くいっている時ほど、とにかく邪魔が入りやすく、長続きはしないってことだ」
ハッとした狐目の妖怪が周囲を見渡せば、数人ほど残っていた同胞は皆、地に伏している。
残っているのは、鬼の妖に真っ直ぐ射抜かれ、畏怖の念を抱いて身体を震わせている、狐目の妖怪だけだ。
「っ、……おい! お前はいつまでそこに隠れている! 早く出てきて、我らの治癒をしろ!」
狐目の妖怪が、突然叫び出す。
この場にはもう仲間などいないはずなのに、その目はある一点を真っ直ぐに見つめている。
「……まさか、まだ仲間が隠れてんのか?」
葵は、狐目の妖怪の視線の先を辿った。
目を凝らして見れば、暗がりの中、茂みがガサリと音を立てた。そこから、小さな獣耳がはみ出ている。
「……出てこいよ」
葵が呼びかければ、茂みから顔を出したその姿は――見覚えのある妖怪だった。
「お前は……っ、あの時の……」
以前廃屋敷で朔夜が助けた、狐の妖だ。
葵と時雨は人型の姿を見るのは初めてだったが、その妖気から、あの時の妖狐だと直ぐに察することができた。
――クソッ。だから妖怪なんて、信用できないんだ。
全ての妖怪が悪であるはずがないと、妖怪を信じたいと……そう思い、変わり始めていた葵の心に、再び黒い影が差す。
「……お前は、オレが滅する」
葵は、妖狐の少女のもとへ足を進める。
少女はその場で固まったままで、逃げる様子はない。ジッと立ち竦んでいる。
「っ、使えない奴だ。それなら……!」
狐目の妖怪は歯噛みすると、苛立だしそうにそう漏らして、胸元に隠し持っていた飛び道具を手に取った。
妖狐の少女も道連れに、葵諸共始末してしまおうと考えたのだろう。
狐目の妖怪が放った銃弾が、二人のもとに一直線に迫る。
しかし、その銃弾が二人に届くことはなかった。
鬼の妖が、その銃弾を刀で弾いたからだ。
時雨はその間に狐目の妖怪のもとへと駆け出し、その胴を真っ二つに斬り裂いていた。
「ふぅ、これで片付いたね」
時雨は付いた血を振り払ってから、打刀を腰元に差した。
「ナイスアシスト、鬼のお兄さん」
「……あぁ。お前もな」
時雨は鬼の妖に、気さくに声を掛ける。
鬼の妖は短い言葉を返すと、葵の側で変わらず立ち竦んでいる妖狐の少女のもとへと歩み寄る。
「コイツは、オレが貰っていく」
鬼の妖は、自分を見上げて呆然とした様子で固まっている妖狐の少女を軽々と抱き上げた。
葵の目には―――何故かその姿が、一瞬、朔夜に重なって見えた。
葵は瞬きをして、目元を擦る。
しかし、次にその瞳を開いた時、鬼の妖も妖狐の少女も、その場から忽然と姿を消していた。
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