第二十三話 魁組への訪問
「ボク、朔夜くんの家に行ってみたいんだ」
「……え? ウチに?」
「うん。ほら、朔夜くんの家って凄く大きいし、お家でお店もやってるんだよね? 確か……『なごみ処~椿~』だったっけ? この前お店の前を通りかかったことがあってさ、それからずっと気になってたんだ」
「そ、そっか。ありがとう」
「だから明日、同好会メンバーで朔夜くんの家に遊びに行かないかって話になったんだよ」
「えっ、いやでも、ウチにきても特に面白いものもないと思うし……」
「あはは、大丈夫だよ。それじゃあ明日のお昼過ぎに、皆でお邪魔するね。あ、真白くんには朔夜くんから言っておいてね」
「えっ、ちょっと待って……!」
「――――と、いうことでして……」
通話の内容を語った朔夜は、恐る恐る、左隣を歩く不機嫌オーラ丸出しな男に目を向けた。
「って、いったぁ! ……何すんだよ真白!」
真白の強烈なデコピンを食らった朔夜は、額を手で抑えながら、涙目で真白を睨む。
「何すんだよ、じゃねーだろ。……どうすんだよ。家にアイツらなんか呼んだら、妖怪屋敷だってバレちまうぞ」
「うっ……そうなんだよね。断ろうと思ったんだけど、その前に時雨くんに、電話切られちゃって」
「チッ、あの
「え、それってもしかして、時雨くんのこと?」
真白の怒気がこもった今の呼び名は、時雨に向けてのものだろう。
朔夜は「(何で似非神なんだろう?)」と内心で首を傾げる。
しかし真白は朔夜の問いに答えることなく、苛々したオーラを放ちながら黙って歩いているので、朔夜も“触らぬ神に祟りなし”と言わんばかりに、それ以上追究することは諦めた。
「(皆と鉢合わせることがないように注意しないとだけど……まぁ、決まっちゃったものは仕方ないよね)」
と、持ち前の楽観的に思考に切り替えたのだった。
***
翌日。今日は同好会のメンバーが遊びに来る日だ。
時刻が十二時を過ぎたころ、朔夜は声を張り上げながら、屋敷内を回っていた。
「皆! 昨日も言ったけど、あと一時間もしたら友達が遊びにくるんだ。悪いけど、その間は何処かに身を潜めていてね」
「朔夜様、ですがそんな餓鬼ども……むしろちょいと脅かしてやりましょうか?」
「そりゃいいや! 魁組の恐ろしさを見せつけてやろうぜ!」
「だ、駄目だよそんなことしちゃ! それに、友達の中には陰陽師の末裔の子がいるんだ。逆に皆が滅せられちゃうよ」
「「お、陰陽師……?」」
組の若い者たちはきょとんとした顔をしているが、古株の中には、その名を聞いて顔を蒼ざめさせている者もいた。
「オレ、嫌な記憶を思い出しちまった……」
「あれ、何百年前だったっけか? あの時の陰陽師、ヤバかったよなぁ」
「あの、変な術を使って動きを封じるやつとかな」
「あれは卑怯だよなぁ!」
過去に陰陽師の者と何かあったのだろうか。昔話に花を咲かせようとしている者たちを「それは後で話してね!」と一蹴した朔夜は、尚も家中を回って歩く。
「ったく、昨日のうちにきっぱり断っとけば、こんな面倒なことしなくて済んだのによ」
朔夜と一緒に屋敷内を回っていた真白は、隣でブツブツと悪態を吐いている。
「もう決まっちゃったんだから、仕方ないだろ? とりあえず、皆に妖怪が住んでいるってことがバレないように、頑張るよ!」
「……上手くいけばいいけどな」
真白がボソリと呟いた言葉は、玄関から聞こえてきた賑やかな声にかき消される。
「「お邪魔しまーす!」」
「え!? どうしよ、もう来ちゃったよ……! と、とりあえず皆は隠れててね!」
「「へい、分かりやした!」」
朔夜と真白が玄関に向かえば、そこには蛍と瑞樹、葵に時雨、そして……四人と対面するような形で立っている、酒呑童子の姿があった。
「息子がいつも世話になってるなぁ」
「さ、朔夜くんのお父様ですか?」
「か、カッコいい……」
人の姿になった酒呑童子は、にこやかに挨拶をしている。その美しい相貌に、瑞樹と蛍は薄っすらと頬を赤らめ、見惚れているようだ。
「……貴方は……」
ボソリと小さな声で、時雨が呟いた。
何故か驚愕の色を宿して目を見開き、人間の姿に化けている酒呑童子をジッと見つめている。
「……ん? 何だい。俺と何処かで会ったことがあったか?」
「いえ……以前、遠目にお見かけしたことがあっただけですよ」
時雨は曖昧な笑みを浮かべて、緩く首を振る。
そんな時雨を、葵は横目で見つめていた。
時雨の様子に少しの違和感を覚えたからだ。
けれど微笑を湛えている時雨が今何を考えているのか、その心の内までもを読み取ることはできなかった。
「入って。此処が僕の部屋だよ」
朔夜は皆を先導し、自身の部屋へと招き入れた。
「今お茶淹れてくるから、座って待ってて。真白、手伝ってくれる?」
「……はぁ、仕方ねーな」
渋々と立ち上がった真白は、朔夜の背を追いかける。
部屋を出る際に時雨を睨みつけながら、「……勝手な真似すんじゃねーぞ」と、きっちり牽制することは忘れずに。
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