第十七話 廃屋敷の捜索
「そ、それじゃあ、時間も遅いし、効率よく、二人ずつで別れて探索してみようか」
蛍の提案でグーチーパーをして、蛍と瑞樹、真白と時雨、朔夜と葵というペアが一発で出来上がった。
「っ、んで、俺がコイツと一緒なんだよ……!」
「あはは、ボクと一緒が嬉しいからって、そんなに照れなくてもいいよ」
いの一番に抗議の声を上げたのは真白だった。
眉をつり上げて苛立っている真白に対して、時雨はにこにこと感情の読めない表情で笑っている。
「……魁くん、よろしくね」
「うん、よろしくね」
ペアになった葵に笑いかけられて、朔夜もへらりと笑みを返した。
最後まで嫌そうに渋っていた真白に「気をつけろよ」と注意された朔夜は、葵と一緒に庭の捜索に当たる。
「……お前、何で言わないんだよ」
「え?」
「オレが男だってことだよ。どうせすぐにばらすと思ってたのに……何で黙ってるんだ?」
朔夜と二人きりになった途端、葵の纏う雰囲気はガラリと変わった。
男口調の低い声で話す葵にパチリと目を瞬いた朔夜だったが、
「(……あ、そういえば東雲さんって、こっちが素なんだっけ)」
と、すっかり忘れていた事実を思い出した。
「何でって……約束したから。それに東雲さんだって、僕が妖怪のお客さんをもてなしてるってこと、秘密にしてくれてるでしょ?」
ニッコリと気の抜けてしまいそうな笑顔を見せられて、葵はガシガシと頭を掻く。
「……お前ってさ、変わってるって言われんだろ」
「え? う-ん、そうだなぁ……。そう言われると、言われたこともあったかも?」
「……はっ、何だよそれ」
小さく笑みをこぼした葵に、朔夜も嬉しそうに口許をほころばせる。
長年手入れされていないため、庭は雑草が伸び切って荒れていた。
足元を懐中電灯で照らしながら進んでいけば、庭の奥に辿り着く。苔の生えた大きな庭石を一瞥して、特におかしなところはないと判断した朔夜が踵を返そうとすれば――それを葵が制した。
「……待て。妙な気配を感じる」
「え?」
足を止めた朔夜も庭石の方をジッと注視すれば――確かに、微弱ながら妖気を感じる。二人が息を潜めて庭石を見つめていれば、その裏から、小さな影が姿を現した。
「……狐?」
現れたのは、軽々抱きかかえることができそうな小さな体躯をした、狐の妖だった。その身体はあちこちが黒ずみボロボロで、憔悴しきっていることが分かる。
「――悪なる
いつの間にか式札――式神の召喚に使用する札である――を手にしていた葵が呟けば、小さな火の玉が妖狐の周りを取り囲むように現れた。
火の玉はグルグルと円を描きながら、狐の周りを回っている。
「ま、待ってよ東雲さん!」
それを止めたのは朔夜だった。
火の玉の間をすり抜けて、妖狐を守るように立ち塞がる。
「……おい、そこ退け。お前も焼け死にてーのかよ」
「……嫌だ」
「じゃあさっさと退け」
「それも嫌だ」
キッパリと言い放つ朔夜に、葵は忌々しそうに顔を顰める。
「……そうかよ。あの時は見逃しちまったが……今回はそうはいかねぇ。お前が退かねーっつうなら、仕方ねぇよな」
葵が式札を挟んだ指先をスッと宙で真一文字に動かせば、周りを取り囲んでいる火の玉が、少しずつ朔夜たちに近づいていく。
けれど朔夜に一歩も引く様子はなく、妖狐の前に立ち塞がったまま、ジッと静かなまなざしで葵を見つめている。
「(っ、何なんだよコイツは……死ぬのが怖くねぇのか?)」
本気で朔夜を痛めつける――ましてや殺すつもりなど毛頭考えていない葵ではあったが、逃げ出す様子も見られないどころか、一切の恐れも感じていないような朔夜の瞳を前にして――その得も言われぬ雰囲気に、葵は気圧されそうになっていた。
「(仕方ねぇ……コイツにはなるべく当たらないように調節して、妖だけ滅するしかねーか)」
葵がその手を動かし火の玉を操作しようとすれば――どこからか突風が吹き荒れた。強い風に、火の玉の半分がかき消されてしまう。
「チッ、何だよ今の風は……!」
葵は風の気配を感じた方向に視線を向けるが、すでにそこに、人影は見られなかった。
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