第十四話 妖怪研究同好会、始動
「え、えっと、それでは……これから、妖怪研究同好会、の……第一回目の活動を、は、始めます」
同好会の会長となった蛍が、かなりたどたどしくも、記念すべき始まりの挨拶を述べる。
朔夜は笑顔でパチパチと手を叩き、それに釣られるように、瑞樹も小さな音を立てて拍手をする。対する真白はぶすっと不貞腐れたような顔をしているし、葵と時雨は腹の内が読めない表情でニッコリと微笑んでいる。
蛍は長い前髪の下で、チラリと窺うように部員の顔を見渡した。
「(ほ、本当に、僕なんかが会長になって良かったのかな……)」
蛍は今にもプレッシャーに押しつぶされるような思いで、その顔に不安を前面に押し出している。
誰が妖怪研究同好会の会長になるのかという話になった時、満場一致で蛍の名が挙がったのだ。設立を決めた蛍がなるべきだ、と。
蛍は自分が会長だなんて向いていないと辞退しようとしたが……気の弱い性格もあって口にすることもできなかった。
また、現在進行形で自身に突き刺さっている視線が美男美女揃いであることも、蛍の胃をキリキリと締め付ける要因であった。
今日の昼休みにも、クラスメイトの数人の男子に“撫子ちゃんをどうやって同好会に引き入れたのか”と机を囲まれたのだ。……そんなの僕が知りたいよ。
蛍は数時間前の記憶を脳裏に思い浮かべながら、肩をすくませて、所在なさげに両手の指先を擦り合わせた。
「蛍くん。改めて、会長になってくれてありがとう。今日からよろしくね!」
椅子に座っていた朔夜が、おもむろに立ち上がって蛍の手をぎゅっと握った。
裏表を感じさせない、ただただ純粋な好意を感じる言葉は、卑屈になり弱りかけていた蛍の心をじんわりと解す。
「う、ううん。そもそも誘ったのは僕だから……。頼りないと思うけど、が、頑張るから。よろしくね」
「うん。会長の仕事で何か僕にも手伝えることがあったら、いつでも言ってね」
優しい言葉に胸を震わせた蛍は、ジーンと泣きそうになりながらも、コクリと頷いた。
「……なぁ。この部屋、何か埃っぽくね?」
黙って話を聞いていた真白が、ポツリと低い声で呟いた。先程から不機嫌な顔をしているとは思ったが、どうやら、この部屋の空気の悪さに苛立っていたらしい。
皆の了承をとる前に立ち上がった真白が勝手に窓を開ければ、春特有の生温い風がさらりと流れ込んでくる。
中央に設置されている白くて大きな丸机。よく見れば、同じ種類の半円型の机を二つくっつけているようだ。そこに積まれていたプリントの一枚が、柔らかな風に揺れてカサリと小さな音を立てた。
「い、一応、先生が、軽く荷物を片付けてはくれたみたいなんだけど……その、掃除は行き届いてないのかもしれないね」
新設されたばかりの同好会ではあるが、放課後の時間に限り、空いている第二社会科準備室を部室として貸してもらうことができた。
“妖怪研究同好会”などという名前だけ見れば怪しさ満点の同好会ではあるが、設立を申請したのが普段真面目な生徒である蛍であったことも、部屋を貸してもらえたことに一因しているのかもしれない。
六畳程はありそうな空間は、右端の方に大きな本棚が設置されていて、奥の方に二つ並んで置かれている段ボールの中には、古くなった地球儀などの教材がやや乱雑に片付けられている。
部員六人が集まると些か手狭にも感じるが、それは致し方ないだろう。
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