第十話 二度目の遭遇
「それじゃあ、また明日」
本屋に寄るという蛍と、これから塾に行くという瑞樹に校門前で別れを告げた朔夜は、一人帰路につきながら、どうするべきかと考えていた。
せっかく仲良くなれたのだし、一緒の部活(人数が少ないため同好会扱いにはなってしまうが)に入れたら楽しいだろうとは思う。けれど、内容が妖怪の研究。それが問題だった。
茨木童子には、家のことや自身が半妖であることは他言しないようにと言われている。けれど真白には、感情が顔に出やすいとよく言われてしまうため、変にボロを出してしまわないか心配なのだ。
帰ったら真白にも相談してみようと考えながら歩いていた朔夜だったが、前方に見慣れた後ろ姿を見つけて足を止めた。
朔夜と同じブレザーに、膝丈のスカート。艶やかな長い黒髪を下ろしているあの後ろ姿は、昨日の帰り道でも遭遇した、葵だった。
葵が向かう先は、朔夜の自宅方面と同じだ。折角だし声を掛けてみようかと考えていれば、葵は右の路地に曲がり、道を逸れてしまった。
けれどあの道は暫く行けば行き止まりで、人も住んでいないような廃れた小屋があるだけだったはず。一体何の用があるのだろうか。
それに、昨日の葵の不可解な言動が気になっていた朔夜は、妖怪に追われたこともあるしと心配になり、葵の後を追いかけることにした。
十メートル程離れた距離で後を付けながら、人っ子一人いない陰の差す道を進んでいけば、葵はその足をピタリと止める。
「……付いてきてることは分かってるんだよ」
――えっ、バレてたの?
コソコソ後を付けてしまったことを気まずく思いながらも、朔夜は姿を現わそうと隠れていた電柱の陰から一歩足を踏み出そうとした。けれど――朔夜が動くよりも早く、その場に響いたのは、不気味な笑い声だった。
「フ、フフフ……ミツ、ケタ……‼」
葵の前に姿を現したのは、昨日朔夜たちを追いかけてきた三つ目の妖怪だった。朔夜の思った通り、やはり狙いは葵だったようで、その後をずっと尾けていたらしい。
「やっと出やがったな……」
そう言って葵がポケットから取り出したには、墨でミミズの這ったような文字が書いてある、お札のようなものだった。葵はそれを人差し指と中指で挟み、三つ目の妖怪に向ける。
「――悪なる
葵が文言を唱えれば、周りに小さな風が巻き起こり、葵のスカートをふわりと揺らした。それと同時に、パチパチと小さな火花のようなものが散っている。
「ま、待って!」
後ずさる三つ目の妖怪の姿を目にした朔夜は、咄嗟に駆けだし、葵と妖怪の間に割って入っていた。
「な、何でお前がここに……!」
朔夜が居ることに気づいていなかったらしい葵は、狼狽えながらもその眼を鋭くして、朔夜を睨みつけた。そして、朔夜の肩を掴んで強引にその場から退かせようとする。
「おい、邪魔だ。そこどけ」
「ちょ、ちょっと待ってよ東雲さん! だって東雲さん、この妖怪のこと滅しようとしてるんでしょ?」
「あぁ? 当たり前だろ」
「でも、この妖怪からは嫌な感じがしないんだよ。だからさ、まずは話を聞いてみようよ!」
「……はぁ?」
――お前、何言ってんだ? 頭湧いてんのか?
顔にでかでかと、朔夜に対しての侮蔑の言葉が書かれている。けれど美しい顔から凄まれても、朔夜は意にも介していない様子で葵から妖怪へと視線を移した。
妖怪は未だに不気味な笑い声を漏らしながらも、特に攻撃してくるような様子は見られず、その場に留まっている。
「ねぇ、よかったら僕の家にこない? 君の話を聞きたいんだ」
「……ハ、ハナシ、スル……」
「うん、分かったよ。あ、東雲さんもおいでよ。美味しいお菓子もあるからさ」
――何で妖怪と普通に会話してるんだ、コイツは。
ポカンと呆ける葵を置いて話は進んでいき、何故か素直に朔夜の後をついて行く妖怪の姿を見て、葵は更に目を丸くする。
「とりあえず、付いて行ってみれば?」
葵の耳元で、誰かが囁いた。しかしその人物はそれだけ告げると、その場からすぅっと姿を消してしまう。
「……チッ、めんどくせぇな」
葵は声の主に静かに頷き、朔夜と三つ目の妖怪の後を追いかけた。
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