第五話 魁組四天王
「あ、そーいえば言い忘れてた! 朔夜様、おっかえりなさ~い!」
「朔夜様。本日もお勤めご苦労様でした」
いつでも元気いっぱいの虎熊童子と真面目で苦労人の金童子からの出迎えの言葉に、笑顔で答える朔夜。
「ただいま。ふふっ、やっぱり四人って仲が良いよね。いつも一緒にいるイメージだよ」
朔夜の言葉に得意げに鼻の下を擦るのは虎熊童子だ。
「へへっ、そうなんです! 俺ら四人めちゃくちゃに仲良しっすから! な!」
虎熊童子の言葉に顔を見合せる、その他三人。
「……うん、まぁ?」
「仲良しかは分からないが、信用に足る仲間だとは思っている」
「仲良しっていうかなぁ、俺はお前らの面倒見るので手一杯で、最早父親にでもなった気でいるよ」
「……父親っていうより、母親だと思うけど……」
上から順に熊童子、星熊童子、金童子、最後にもう一度の熊童子である。
「え~! そこは賛同してくれるところだろ~! 何だよお前ら、薄情な奴らだな!」
むむっと唇を尖らせる虎熊童子の頭をポンと撫でながら「はいはい、仲良し仲良し」と声を掛ける金童子からは、確かに滲み出る母親感がある。本人は絶対に認めないだろうが。
――余談にはなるが、ここで魁組四天王である四人について紹介しておきたいと思う。
“
四天王内での隊長を務めている。
寡黙で愛想がなく生真面目な性格であり、冗談が通じない。
彼をよく知る者達からは天然の気があるのでは、とも言われている。
瞳の色は青色で、渾名は
“
星熊童子と瓜二つの顔立ちだが、二人に血の繋がりがあるのか、詳しいことは明かされていない。いつも気だるげでボーッとしていることが多く、天然発言も多い。
瞳の色は朱色で、渾名は
“
猪突猛進型で、常に元気いっぱいの騒がしい印象だ。
瞳の色は
“
部隊を纏める影の功労者であり、苦労人である。
瞳の色は黒で、渾名は
四人それぞれが青龍・朱雀・白虎・玄武の四聖獣に相通ずる能力を操ることができ、魁組四天王と呼ばれる一方“
「――ってゆーか! お前らしょ・る・い‼ まだ終わってないくせにどこ行くつもりだって言ってんだよ!」
どうやら四人で書類仕事をしていた所、気が付けば金童子以外の三人がいなくなっていたようだ。金童子からの荒々しさを孕んだ言葉にも一切動じることなく、無表情で答えるのは星熊童子。
「どこって……どこだ?」
「さぁ……俺と
コテンと首を傾げながら顔を見合せる星熊童子と熊童子。同じ顔で同じ動きをしていると、まるで合わせ鏡を見ているような錯覚に陥る。
「さあってお前ら……」
肩を落とす金童子の首に手を回し、満面の笑みを浮かべる虎熊童子。
「え~、そんなの飲みに行くに決まってんじゃん! 頭と一緒なら美味しい酒に飯が食えるのは間違いないしね! 書類仕事はまた明日にして、今日は金吾も飲みにいこーよ!」
「決まってんじゃんってお前なぁ……! ってか、頭はまた飲みに行くのか……面倒事起こさなきゃいいけど」
頭を抱える金童子の姿を目にし、朔夜の顔にも苦い笑みが浮かぶ。
魁組には数多の種族の妖がいるが、それにも拘わらず、女に部類される妖はほとんどいない。それは何故なのか。
「まぁ、頭は天性の女誑しだからなぁ。女関係の厄介ごとなら、一つや二つ、三つくらいは起こしちゃうんじゃないの?」
――そう。その見目の美しさはもちろんのこと、気品ある所作や誰をも引き付ける存在感も相俟って、酒呑童子という男は凄まじくモテる。また本人も認めている通りの女好きで、年齢は問わず、女には誰であっても基本的に優しい。そのため、酒呑童子の態度からその気があるのでは、と勘違いしてしまう女性も少なくないのだ。
以前魁組にいた女の妖怪が勘違いを起こして一悶着あったこともあり、屋敷内には女に部類される妖怪がほとんどいない。もちろん少数ではあるが、女の妖怪もいることにはいる。
しかし、基本的には見目がご高齢のお祖母ちゃん妖怪しかいないため、酒呑童子は若い女を求めて、頻繁に外へと飲みに出掛けるのだ。
「おい、ちょっと待て」
茨木童子と言い合っていた酒呑童子が、朔夜たちのもとへと歩み寄る。
「いいかお前ら。一つ訂正しておくが……俺は女を騙したり弄んだりしたことはねーぞ」
キリッと真面目な顔つきで言い放つ酒呑童子を見て、本日何度目になるか分からない重たい溜息を吐き出している茨木童子。
朔夜は、真面目な茨木童子が、いつかストレスで倒れてしまうのではないかと心配していた。しかし茨木童子が父のことを尊敬し崇拝していることも知っているので、口には出さず、今は見守るだけに留めているが。
「でも確かに! 頭って女に優しいけど、絶対に手は出さないもんなぁ」
酒吞童子の言葉に、同意の声を上げる虎熊童子。
「うん。そーゆうところは誠実だもんね、頭って」
熊童子も、眠たそうに眼をこすりながら言葉を続けた。
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