花葬園

古川

🌷

「ありったけの種を」


 病床の兄は私に注文した。花の種。品種も色もなんでもいいという。


 私は走って街中の種を買い集めた。これが私にできる精一杯だよ、という量を買った。

 兄はそのバカみたいな量を見て笑ってから、「ありがとう」と言って水と一緒にごくごく飲み込んだ。すっかり痩せた体によく入るものだと、感心して泣きそびれた。

 二日後に兄は死んだ。つつがなく予定地に埋葬され、腐敗、分解ののち、養分となり発芽した。


 季節が過ぎて、兄の花は盛大に咲いた。あんまりにも色鮮やかで、兄に似合わなくて笑う。

 中心に立ってみる。花が揺れて、葉が光る。虫がいて、鳥が来る。ほんとだ兄ちゃん。死は一過程だ。みんなでっかい循環の中だよ。


 舞い上がった綿毛が鼻先をかすめた。種を積んだそれは、風に乗ってふわふわ飛んでいく。

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花葬園 古川 @Mckinney

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