第12話 救いの手
ジェラルドを包んだ水がさざめく。
異変を感じたジェラルドが身構えると、さらに大量の水が押し寄せ、地下牢を破壊していく。
ジェラルドと隣の牢にいたスヴェンの体を翳め、激流となった水が移動を始めた。
溺れぬようにするので必死だ。
まさかあれほど求めた水に殺されかけるとは。
上も下もわからないが、水はうねり続けている。
ようやく水から解放され、床に投げ出されると、スヴェンの咳き込む声が聞こえた。
ジェラルドも鼻の奥がツンとして痛い。
「ジェラルド様!」
ずぶ濡れのジェラルドにしがみついたのはヒストリアだ。
自身が濡れることも構わず、ジェラルドの無事に涙している。
「良かった、ジェラルド様! まだ首は繋がってますね」
「何の話だ? いや、そうか……」
自分が今どこにいるのかジェラルドは理解した。
ここは謁見の間だ。
国王と王妃、そして王太子がおり、大量の剣が突きつけられている。
ようやく落ち着いたスヴェンと目が合う。
三人は一か所に集まった、ヒストリアはジェラルドにくっついているだけだが。
「貴様ら、一体何をした?」
国王の問いにジェラルドは肩をすくめる。
「俺たちの方が聞きたいです。これはどういった事でしょうか」
ずぶ濡れのジェラルドとスヴェンも訳が分からないのに、聞かれても困る。
いつの間にか大量の水は消えていた。
「ヒストリア、何か知らないか?」
ジェラルドが聞くと、ヒストリアは怒ったようにジェラルドに話す。
「私、しっかりと祈ったんです。そうしなければジェラルド様の首を刎ねるって。でも水は出たのに枯れたからって、約束をなしにするって言われたんです。気を失う程祈ったのに。それでジェラルド様に会いたいって祈ったらこんな事になりました。スヴェン様も無事でよかったです」
「……無事ではないですね」
トラウマになりそうな経験だった。
「なるほど。つまりこの水は、俺の為にヒストリアが呼び寄せてくれたのか」
ぎゅっと衣類を絞ると水がまだ出る。
抱きついているヒストリアも濡れていた。
「陛下どうします? 俺を殺すと水は手に入りません。ヒストリアの祈った水は俺の元に来ますから。俺やヒストリアを閉じ込めても無駄ですよ、またこうなりますので」
激流に壊された壁やドアがその威力を物語っている。
ジェラルドがこれは好機と見た。
「俺達に要らぬ干渉をしなければ、今後も協力はします。しかし邪魔をすればどうなるかわかりましたよね?」
皆が口を噤む中、アルベルトがジェラルドを睨みつける。
「たかが庶子のお前が生意気なことを! 誰のおかげで生きてこられたと思っているのだ!」
「少なくとも兄上のおかげではありませんね」
言ったのはジェラルドではない。
「二人とも、さすがに風邪をひくぞ。さっさと拭け」
ブラッドはジェラルドとスヴェンにタオルを投げつける。
「なぜ、ブラッドがここに?」
クーラン国にいるはずの第二王子が何故ここにいるのかと、皆が不思議そうだ。
「クーランの民より要望が来た。自分たちの主は自分達で決めさせてほしいと。一体誰だと聞くと。ジェラルド、お前がいいと言われたよ」
「俺?」
ジェラルドは理解できない。
クーランの人を沢山殺してきたのだから、自分は恨まれているはずなんだが。
「あぁ。お前は俺達に内緒で、民達の為に食料や水も僅かだが持っていっただろ。そして必ずクーランをよくすると約束した。そうだな?」
確かにジェラルドはそういうことをした。
僅かな食料は争いの火種になるかと危惧したが、平和に分け合ったようだ。
「俺が統治するにしろ、一度お前の顔を見ないと納得しないらしい。だから面倒だが、お前を連れて行こうと一旦戻ってきたのだ」
ブラッドの手がジェラルドを撫でる。
王族の中で唯一ジェラルドに優しいのがこのブラッドだ。
だからクーランの統治をブラッドに任せると言われた時も反発は覚えなかった。
納得していたからだ。
「だが連れていくとなるとそこの王女も一緒か。さてどうするか」
一連の騒動についてはブラッドも一通り見ていた。
どうやらこの王女はとてつもない力の持ち主らしいと静観していたのだが、連れていくとなるとどうするか、困ってしまう。
「クーランの民は王族の根絶やしと公開処刑を望んでいる。王女の力は確かに素晴らしいが、下手にその血筋を残して禍根を作りたくはない」
ブラッドはヒストリアの処刑も念頭に置いている事を、歯に衣着せず言い放った。
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