第5話 王への報告と憎悪

「ただいま戻りました、陛下」

ジェラルドとスヴェンは膝をついた。


「おお、ジェラルド。無事に戻ってきてくれて良かった」

国王と王妃が揃って座っているのを見て、眉をしかめる。


(国王はともかく王妃もいたか)

内心で嫌悪を抱きつつも、淡々と報告をしていく。


「我軍の被害はほぼありません。クーランの民は約束通り邪魔することなく、城までの道を開けてくれました。王族達を容易に捕らえることが出来、そのまま彼奴らの居城の牢獄に閉じ込めてきています。あとは処刑の日を待つばかり」

罪人を入れるはずのところに、自分たちが入るとは思っていなかっただろうな。


「なるほど、ご苦労であった。では処刑の前にクーランの情勢把握と、民達の生活の立て直しを図る。約束を違えるとまずいことになるからな」

クーランの民達との約束だ。


今後はあの土地をシェスタが治める事になる、その為にも今住んでいる民達の反発を買うのはよくない。


「ではすぐにでもブラッド様があちらに向かうのでしょうか?」


「そうなるな」

この国の第二王子ブラッド、彼があの地を治める事は前々から決まっていた。


命を張り、戦に出たのはジェラルドであるというのに。


「お前にも何か報奨を考えていたが、何か欲しいものはあるか?」


「ありがたき幸せ。しかし、今は戦の勝利にて気が逸っておりますので、落ち着いた頃に是非進言させて頂きます」

王妃が首を傾げる。


「そう言えばジェラルド。何やら女を連れて帰ってきたと聞きました。捕虜にしては異例な扱い、どういった女性なのでしょうか?」

国王の目がギラついたのが見えた。


(女好きのクソ野郎が)

王妃の余計な一言に内心で舌打ちし、ジェラルドは平静を装って答えた。


「クーランの王城に閉じ込められていた、呪われた王女だそうです。身元の確認と、その呪いの力が本当であるかを見極める為にと連れ帰ってきました」

ジェラルドは言葉を続ける。


「この辺りでは見ない白い髪と白い肌をした異様な風体です。肉も少なく瘦せ衰えており、とても人とは思えない。まさに幽鬼のような女でして」

いくらか誇張し伝えると、国王は少しがっかりした様子だ。


魅力少なく伝えれば興味をなくす、分かりやすい男だ。


「そのようなものを王国内に連れてきたというのですか?」

王妃の𠮟責にジェラルドは口の端を上げる。


「ご安心を。そう言われると思い、女は北の離宮にて幽閉させております」

意地悪く言うとスヴェンに後ろから小突かれた。


「そう……ならいいわ。絶対に出さないで頂戴ね」

王妃は嫌悪をにじませながらも、納得してくれたようだ。


「報告は以上です、それでは」


「待て」

立ち去ろうとしたジェラルドを国王が止めた。


「どうされました? 陛下」

まだ何か聞きたいことがあるのだろうか。


「大仕事を無事に果たしてきてくれて、立派に育ってわしは嬉しい。さすが我が息子だ」

嫌悪で鳥肌が立つが、余計なことは言えない。


「ありがとうございます、陛下。庶子の私にもそのような言葉を掛けていただき、本当に嬉しく思います。では、失礼します」

頭を下げ、ジェラルドはその場を後にした。


早足にヒストリアの元へと向かう。


「大丈夫ですか? ジェラルド様」

スヴェンが気遣いの言葉を言ってくれるが、ジェラルドは頷くだけだ。


口を押えているので言葉が出せない。


今手を離せば口汚い罵り言葉が次々と溢れ出そうだ。


(誰が父親だ、俺の母を殺しておいて!)

会う度に剣を抜きそうになる自分がいる。





ジェラルドの母は側室の一人だった。


だが、北の離宮で息を引き取って、今はいない。


この国の王、アドルフに殺されたのだ。

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