第4話 シェスタ国
「着いたぞ」
城門の前に来た。
その頃には空は白く明るくなり、少しずつ日も出てきている。
ヒストリアを馬から下ろすと、彼女はくずおれるように地面に座り込んでしまった。
「疲れました……馬に乗るというのは凄く、体力がいるのですね」
立つこともままならず、体が震える。
ジェラルドにずっと支えられていたものの、始終揺れていたためか今もグラグラした感覚が残っている。
「無茶させてしまったな」
ジェラルドはヒストリアを抱えて王城に向かおうとした。
「お待ちください!まさかそのまま城に入るつもりですか?」
スヴェンの制止の声に、ジェラルドは足を止めた。
「そうだ。このまま置いてはおけないだろう」
「ですが、クーランの王族だという女性を、このまま城に入れるわけには行きません! 万が一暗殺者だったとしたらどうするのです!」
スヴェンの大声に顔を顰めたが、一理ある。
さすがにこのままでの通過はまずいか。
「ヒストリア。少し我慢できるか?」
「ジェラルド様になら何をされても平気です、あ、ここで剣を使いますか?」
「そっちじゃない。こっちだ」
ジェラルドが縄を出した。
「絞首は苦しそうですが、我慢します! どうぞ!」
髪をまとめ、細く白い首を露わにされる。
「それでもない。念のため手足を縛って身動き取れなくするだけだ。幽閉先についたら解いてやる」
ジェラルドは呆れ顔をしたが、テキパキとヒストリアの手足を縛り、目隠しをして、猿轡を施した。
「窮屈かもしれないが、我慢しろよ」
コクコクと頷くヒストリアを荷物のように馬に乗せ、手綱を引いて城に入る。
「お帰りなさい、ジェラルド様! ご無事で何よりです」
門番たちに労いの声を掛けられる。
「そちらの女性? は、どうしたのでしょうか」
荷物のように扱われ、自由を奪われている女を見て訝しげだ。
「俺の大事な捕虜だ。すまないが陛下の元へは後で寄る。俺はこのまま北の離宮に行く」
ヒストリアを下ろし、厩舎の者に馬を任せる。
「北の離宮に……わかりました」
ジェラルドは城内を通らず、奥へと歩いていく。
意外と遠いようで、抱えられているうちにヒストリアは眠たくなってきた。
思えば夜通し馬に揺られ、慣れないところに来たのだ。
頑張って起きてたが、眠くなり、ついには力が抜けてしまう。
「ヒストリア?」
急に力が抜けたのを感じ、確認する。
規則正しく呼吸はしているが、返事はない。
眠ってしまったとは思っておらず、急いで北の離宮にと足を速める。
「マリベル」
離宮に着くと一人の女性が玄関掃除をしていた。
この離宮の管理人で、ジェラルドのお世話をしていた者だ。
「ジェラルド様お帰りなさい、ご無事でよかった。あら?」
ジェラルドの無事を喜びつつも、その手に抱えられている女性に気づく。
「この方はどうなさったのですか?」
「大事な捕虜だ。とにかくゆっくり休ませてほしい」
ぐるぐるに身動きがとれないようにされてるし、生きてるかもわからない風体だ。
「奥の部屋を借りるぞ。すぐに休めるし、あそこは広い」
マリベルは驚いたが何も言わずついていく。
側近のスヴェンが何も言わないのだから、従うだけだ。
「おい、ヒストリア。大丈夫か?」
縄を解き、目隠しや猿轡をとる。
頬をぺちぺち叩くが全く起きない。
「あと少し、あと少しだけ、寝せてください…」
ようやくそう言ったのは、叩かれすぎて頬が赤くなった頃だ。
無事生きててジェラルドはホッとする。
「マリベル、俺は今から陛下に報告してくる。くれぐれもこの捕虜、ヒストリアを任せた。誰が来てもここには入れないで欲しい」
「わかりました、お気をつけて」
マリベルは恭しく礼をする。
「戻ってきたらこちらで食事をとるからよろしくな」
「では、たくさん美味しいものを用意しておきますね」
マリベルに見送られながら、もと来た道を戻る。
早く報告を終わらせ、ヒストリアの側にいたい。
湧き上がる感情に苛立ちを感じながら歩みを進めた。
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