第3話 外の世界

「何故ですか?どうして殺してくれないのです?!」

絶望に満ちたヒストリアの表情に胸が痛む。


「お前が本当に王族なら、然るべき手順を踏まなければならない」

ジェラルドはヒストリアの腕を掴む。


華奢で折れそうだ、少しでも強く握ればすぐに赤く色づくだろう。


「この国の民は王族によって、長年苦しめられていた。俺たちはそんな民の思いに答えるため、そしてシェスタの為にと戦を始めた。そして、戦を始めた正当性を周辺国にも知らしめる必要があり、その一つに王族の公開処刑がある。クーランの王族を滅ぼし、クーランをシェスタに吸収するためこの国をなくすつもりだ」


「ではそうと認められればいいのですね、その時にはぜひあなたの手で殺してくださいますね」

嬉しそうな笑顔に心が揺れ動く。


言っている内容がこんな物騒なものじゃなければよかったのに。


「そんなに俺がいいのか……」

ならば死ぬ時はジェラルドが責任を持とう。


「ではここを出るぞ。スヴェン、ここも調査対象として伝えておけ」

ヒストリアの手を引きながらジェラルドは地上を目指す。


「行けませんジェラルド様。私が外に出たら呪いが……」


「この国の王族はすべて捕らえた。もう滅んだも同然だ、だから呪いなど起きても意味がない」


「なるほど」

ヒストリアが納得したように声を上げる。


ころころと変わる彼女の様子は愛おしいような苛立つような……気持ちが落ち着かない。


「ジェラルド様、俺がその女を連行します。ですから手を離してください」

追いついてきたスヴェンが苦言を呈す。


「いいや、俺に殺して欲しいそうだから、俺が責任を持つ。北の離宮が空いてるから、あそこに住まわすつもりだ」


「あそこに? いやしかし……」


「俺に反対するか?スヴェン」

そう主に言われ、言葉を飲み込む。


「いえ、仰せのままに」

スヴェンは少しためらうが引き下がった。


「私のせいで喧嘩になってませんか? 私なんて地下牢でいいのですよ?」

申し訳なさそうなヒストリアの言葉にジェラルドが拒む。


「あいにくと地下牢は先に捕らえた者達でいっぱいだ。だから俺がとっておきの幽閉先を案内する」

幽閉と言われ、ヒストリアは安心したようだ。


少し変わった感覚だが、まぁいい。


北の離宮は誰も寄らない場所だ、今まであんな狭いところに閉じ込められていたヒストリアにはぴったりだろう。


「今からヒストリアを俺の国に連れて帰る。飛ばせば明け方には着くはずだ」

今は夜だ、月が綺麗に見えている。


「これが、外?」

部屋から出たことがなかったヒストリアは胸いっぱいに息を吸い、忙しなく周りを見ている。


「暗い、でも明るい。あれがお月様? 肌に感じるこれは風? 気持ち良くて息がしやすいわ」

何度も呼吸を繰り返し両手を広げるヒストリアは、全身で外を感じているようだ。


「夢の中とも本で読んだ事とも違う。凄い、これって何?」

何と表現したらいいのかわからないようだ。


その内にスヴェンが馬を連れてやってくる。


「あいにくとその女性を乗せるような馬車はありません。やはり地下牢に入れていきましょう」


「大丈夫だ、俺の馬に乗せるから」

スヴェンの提案は速攻却下した。


「ヒストリア、おいで」

ジェラルドは近づいてきたヒストリアを抱え、馬に乗せた。


「ふわぁ! 高いです、どうしたらいいのでしょうか?!」

体を強張らせるヒストリアの後ろにジェラルドは素早く乗る。


「俺に掴まれ」


「は、はい」

横抱きに座らせられたヒストリアはジェラルドの服をしっかりと掴む。


温かな感触にジェラルドは嬉しくなる。


「落ちるなよ」

そう言うと馬を走らせた。


複雑な表情のスヴェンが後ろをついてくる。


夜に駆けるなど危険だが、魔法で行く先を照らし、道がわかるようにしている。


「この光、便利ですね」


「そうだな魔法は本当に便利だ。今度教えてやる」


「本当ですか? 嬉しい」

擦り寄るヒストリアは処刑される立場をわかっていなさそうだった。


ジェラルドもヒストリアを処刑することなど忘れたい。


だがその前に、あんな狭いところに閉じ込められていたヒストリアに、もっと色んなものを見せて経験させたいと思ったのだ。


「怖いとか、寒いとかはないか?」


「怖くはないです。ですが、風が少し寒いかも……」

折角の外の風だけど、書けている馬の上では強く吹いている。


薄い服しかきていないヒストリアには堪えるものだ。


「そうか。ならば俺のマントに入れ。少しはマシになるぞ」

暑い国とはいえ、夜は寒い。


一旦馬を止め、マントを脱いでヒストリアの体を包むようにしてから、再び馬を走らせた。


「とても暖かいです。あとジェラルド様の匂いがして、とても落ち着きます」


「そういう事は言わなくていいんだぞ」

ジェラルドは顔を赤くしてしまった。


今が夜で助かった。



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