第2話 好きな人の願い

思いもかけない言葉にジェラルドは開いた口が塞がらない。


「どういうことだ?」

ようやっと言葉を出せた。


「夢を見たのです。ジェラルド=ユーグ=マルシェ……あなたが私の運命の人だと言われました。ですからあなたは私のこの忌まわしい命を絶つものだと思ったのです。さぁひと思いに殺してください!」

女は両手を広げ、目を閉じ、ジェラルドの剣を受け入れる準備をする。


先程誤って傷つけてしまった首筋からは血が流れて彼女の衣服を汚していた。


「待て、全く話が分からない」

ジェラルドは女の首に手を当て、回復魔法をかける。


汚れた衣類は仕方ないが、傷は消えた。


「何故治したのです? 死にたかったのに」

がっかりして、残念そうな顔になった。


「あんな怪我じゃ死なない。そもそもお前は誰だ? なぜここに閉じ込められていた、兵士に言った呪いとはなんだ?」


「答えれば殺してくれますか?」


「……話によるな。詳しく聞かせてみろ」

殺したくはないので、濁しておく。


女は渋々話を始める。


「私はヒストリアと申します。この国の王女なのですが、生まれた時より呪われております。なのでここを出ることをずっと許されておりませんでした」


「王女? 本当に?」

この国の王と王妃は捕らえているが、まるで違う見目だ。


「私の母は私を生み、息を引き取ったと聞いています。それ以来私はここで暮らし、呪いが解けるよう祈りを捧げて生きておりました。ちなみに母は王族でも貴族でもないそうです」

庶子という事らしい。


ヒストリアはすっと手を合わせ、祈りを捧げる。


「私がここを出るとこの国が滅びるそうで、父は私にけしてここを出ないように、祈りを絶やさぬようにと言いつけました。その為ずっとここで暮らしております」


「こんなところにずっとだと? ヒストリア、今お前は何歳なのだ?」


「十七でしょうか。ここには日も入らないため、時間や日にちの感覚はわからないのですが」

ジェラルドは頭を押える。


「どういった意味だか、分かっているのか? それがどれだけ大変な事か」

ひと一人をこんなところに閉じ込め、無為に生かしていたのか? そんな馬鹿げた呪いなどを信じて。


入口にあった厳重な鍵を思い出す、あれはヒストリアを出さぬよう掛けられた鍵達なのだ。


怒りが湧き上がってくる。


「可笑しな話です。閉じ込められていたならば、何故そのように流暢に話せるのか。ジェラルド様を謀る罠ではないのですか?」

ジェラルドを最初にここに呼んだ兵士、スヴェンが疑いの眼差しをヒストリアに向ける。


得体のしれないヒストリアを警戒しているようだ。


「食事を持ってくるものはいましたから、言葉や文字を教わりましたわ。本もたくさん読んで勉強しましたわ」

ずらりと並んだ本はヒストリアのものなのか。


幼児向けのものやら、小難しい本がたくさん並んでいる。


これを全て読んだのだとしたら大したものだ。


「寂しくともここから出ることは叶わず、夢の中でたくさんの方とお話をさせていただいたのです。目を覚ませば本当の私はこの部屋で独り……とてもつらかったですわ」

一筋の涙が頬を落ちる。


「でもそれも今日で終わりです。ジェラルド様が来てくださいましたもの。さぁその剣を抜いて首でも心の臓でも、一突きにしてください!それで、もうこの苦痛は終わるのです!」

歓喜の涙をヒストリアは流していた。


ジェラルドは剣に手を掛け、

「くだらない」

と、ヒストリアの言葉を一蹴した。







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