第6話

 アサヒ機動レスキュー部隊の若手隊員、安堂武蔵は警視庁遺体安置室で自決を選んだ敵の男を見つめていた。男の顔はどこかスッキリしていた。

「情報を敵に与えるよりも、死を選ぶとはデキる男だな、こやつは」

 五十代にして若々しさが残る、上司の三沢信春(みさわのぶはる)が敵を褒め称えた。トレードマークのNY野球帽をかぶり直す。

「すみません、三沢班長」

「お前が取った行動は正しい。メガネのカメラ映像がそう証明している」

「はたして、そうでしょうか?」

 反論するのは同僚の女性隊員、壁に背中をつける真田美景(さなだみかげ)だ。一本結びの髪型はキツネ目と相まって、彼女の冷たさを引き立てる。安堂同様、両親と兄が神隠しに認定されている。

「この山田勝夫はかなり古株の死神だと察します。そのような人物をみすみす腹切りさせたことは、安堂隊員に何らかのペナルティを与えるべきかと。彼は私たちを呼ぶべきでした。なのに、彼はエレベーター越しで問い詰めた。明らかに彼のミスですから」

「それは結果論だろ!」

 怒気を込めるつもりはなかった。

「結果が全てでしょ。感情論は不要よ。ちゃんとした理由で返して。さ、反論ある?」

 安堂と真田は仲がよくない。そのことを知る彼らの同僚、小久保広志(こくぼひろし)が大きく手を叩いて仲裁に入った。

「はいはいはいはい! ケンカは外でしようね。眠っている仏さんが起きちゃうよ。仏さんがビックリしているよ、わかりましたか、お二人さん?!」

 三沢が軽く諫める。

「小久保、声がデカい。静かにしたまえ」

「お、俺が怒られるの?!」

 両手を広げ、納得できないとアピールだ。

 目力を緩めて、安堂はみなに頭を下げた。彼にはやらなければならないことがある。そのためなら、いくらだって軽い頭を下げる。

「たしかに真田のいうとおりだ。この人が持っていた情報はアキレス隊にとって、とても重要だと思います。三沢班長、真田、小久保、勝手な行動をして、すみません」

 三沢が意気消沈する部下の肩を優しく叩いた。

「君らにそこまで求めていない。真田、君は自分に厳しすぎだ。死神退治はチームワークが重要だ。班でギスギスしていれば、戦闘のときにスキを与える。それは真田にも言える。そこで提案だ、焼き鳥を食べに行こう、ワリカンだが」

 三沢班長は東京本部で一番のケチだ。お調子者の小久保が大きく手を挙げる。

「はいはいはーい! 俺はワリカンでも行きまーす! ね、お二人さんも行くでしょ?」

 真田は決しておごらない班長に呆れつつも、同僚にはえくぼを見せ、右手を安堂に差しだす。

「言い過ぎたことを認めます。私とあなたは死神に大切な人を奪われた。ともに、目的は同じはず。彼らから愛する家族を取り戻しましょう。安堂三等兵」

 がっちりと右手で返す。

「これからもよろしく、真田三等兵」

「一ついい? 今度握手するときは手を拭いてからにしてください。ねっちょりしてて、気持ち悪いから」

「す、すみません」

 慌てて両手を制服で拭きまくる安堂武蔵だった。小久保が急いで、怪訝な表情の真田をなだめたのだった。



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