第2話
砂地の中に建てられた豪邸から白装束に身を包む小太りの男が客人を出迎えた。
「ディアゴさん、久しぶりですね!」
彼は尾形洋(おがたひろし)、八年前までアサヒ国民だった男で、家電メーカーで冷蔵庫を製造していた。しかし、海外メーカーとの値下げ競争の果てに業績が悪化し、リストラに遭った。そして、居酒屋で山田勝夫に出会い、土の国へと移住した。現在は科学省の国営企業で役員を務める。
「奥さん、また妊娠ですか。頑張りますね」
「ロロとはまだ二人目ですよ。デリカとはすでに三人いますね」
「元気でなによりです。またアサヒ国民を連れてきますので、よろしくお願いしますね」
「どんどん連れてきてください。私たちがちゃんと礼儀作法を教えますので」
サトゥルノ国では名誉移民に一夫多妻制を許可している。創造力があり、かつ勤勉なアサヒ国民の子供が欲しいからだ。
サトゥルノ国は五大国の一つであるものの、隣国、火の国と称されるマーズ国と比べれば国土面積は十分の一、五大国では最小で弱小だ。
そのため、いつ侵略されるかわからない安全保障上の懸念があった。マーズ国に負けぬよう技術革新を国策としてきた。
その成果が十年前に現れる。マッドサイエンティスのイガーレ・テールゼンがサトゥルノ国とアサヒ国をつなぐ輪っか状の
ブラブーブを活用した国策、有能なアサヒ国民をサトゥルノ国へ移住させることに成功した。
国防省の
スイカのメンバーである山田勝夫ことディアゴ・フェルナンデス大佐は、組織の創設メンバーであり、数多くのアサヒ国民を移住させた。
彼はアサヒ国で不要とされた人間たちをターゲットにしている。とくにリストラされたサラリーマンという中年男性たちだ。彼らには職務経験値と理不尽な扱いに対する忍耐力がサトゥルノ国民の何倍もあった。
しかも、リストラされた彼らにはプライドがほぼなく、褒めるだけでどんどん成長する。しかも、デキる男を好む女性たちにモテた。子宝に恵まれた元アサヒ国民も大勢いる。しかもしかも、リストラされた彼らは簡単にサトゥルノ国へ移住してくれる。社会から不要とされたからか、上の者に恨みでもあるのか、職務へのやる気が高すぎて、後身の育成も積極的に行うのだ。
「わからない。なぜ彼らのような優秀な人間が社会で蔑まれているのか。えーい、みなのもの、彼らを救いたまえ! 彼らを移住させることで、我が国力を上げるのだ!」
と、サトゥルノ国王が涙を流して熱弁するほどだ。スイカが設立されて早八年、移住者の数はゆうに一万を超えた。
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