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長岡虎鉄という人間の本性は、奔放で、強欲で、自信家で、胆力が人並み外れていて、執念深く、モラルが無い。
学校では平凡な男子生徒を演じながら、居住区や学校から離れた場所で「狩り」を行う。自分の欲を満たすための「狩り」を。
大学生らしき二人組が去ってから、しばらくして今度は背広を着た四十歳前後の男が声をかけてきた。ごく普通の、どこにでもいそうなサラリーマン。あと少しで二十時になろうとしている頃だった。まだ、高校生が出歩いていて補導される時間ではない。塾帰りの生徒なら、もっと遅く帰宅することもある。
あのサラリーマン、つまらなそうな顔をして、佇んでいる女の子を心配して近寄ってきたわけではないだろう。
顔を上げて、話し相手の男性を見上げる虎鉄の瞳が煌めいた。
獲物を見つけた時の眼だ。あの日、教室で俺を見ていたのと同じ瞳。
わざわざ街で狩りを行う虎鉄に、出会い系のアプリを使えば簡単だろう、と言ったこともある。それを、虎鉄は「つまらない」と一蹴した。
善人の立花君にはわからないかもしれないけど、女に化けた男ってバレたら、欺された自分の馬鹿さを棚に上げてキレるヤツもいるしさ、とけらけら笑う。そういう経験があるというのを匂わせて。
「だから、勝てない相手は狩らない。突発的に、この小娘なら騙せるって見た目だけで侮ってくる、それでいて社会的な地位もある相手が一番良い。弱みを握れなければ復讐されるかもしれないから。それには自分の目で確かめないといけない。狩れる相手なのかどうか」
虎鉄が危険な目にあうかもしれないなら、付き合うしかない。危険なら止めて欲しいと頼んだこともあるが、それを虎鉄は「嫌だ」と笑った。
どうして俺はこんなことに協力しているのだろう。
元々、お人好しだとな方だとは思っているが、自分に危険が及ぶのに相手に手を貸すほど面倒見が良いほどじゃなかったはずだ。
馬鹿だとも思う。自分は脅迫されているというのに。
そもそも、たかがキスの写真くらい「悪ふざけをした友人が撮った」の一言で片付くものだ。女装をして成人男性を誑かしている虎鉄を写真や動画で撮影すればその方がずっとショッキングなものになる。それを撮るちゃんすはいくらだってある。これまで何度も虎鉄の狩りに付き合ってきた。教師にそれを見せるだけで、彼は学校側からそれなりの罰を受ける。
虎鉄から逃げることなんて簡単だ。
俺には自分の弱みをさらけ出してくるのだから。
女子高生を夜の街に誘うことは世間的には悪いことで、それを逆手に欺す虎鉄のやり方も悪いことなのだろう。それに協力する俺の行動も正しくはない。
嫌うことができたらいいのに。憎むことができたらいいのに。俺にはそのどちらもできず、ただ乞われるままに、本能のまま狩りをする同級生を見ている。何事も無ければいいのに。狩りが失敗すればいいのにと思いながら。
虎鉄に欺されるサラリーマンを憎らしく思いながら。
サラリーマン風の男性に連れられて、女子高生の格好をした虎鉄が歩き出す。一度も俺の方は見ない。それは俺を信頼しているからなのか、それとも俺の信頼を試しているからなのか、それとも俺の事なんてどうでもいいからなのか。
あの時、虎鉄がどんな気持ちで俺にキスをしてきたのか。
初夏の教室を思い出しながら、ファストフード店を出て、二人のあとをつける。向かう先にあるものは分かっている。飲み屋の並ぶ繁華街とは、すこしズレた細くて薄暗い路地の方に向かっていく。
そこには数軒のホテルが並んでいる。
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