第61話 サトリウス教会の孤児院
シェリダンの街の冒険者ギルドで駆け出し冒険者用訓練を見学したセリナ。
ローラントの剣術、アンナの土魔法、エマの斥候とすべて見せてもらったあと、冒険者ギルドの外で三人の帰りを待っていた。
しかし、その表情は冴えない。
『つまらなさそうじゃのう?』
「うん……訓練、おもってたよりつまらなかった」
最初に見た剣術訓練でも感じたが、ローラントを含め冒険者たちのレベルは、セリナが想定していたよりだいぶ低かったのだ。
アンナが受けた土魔法の訓練は盾となる壁を作ったり、石のつぶてを放つというもの。
なのだが、詠唱が長い上に魔力操作が甘く、壁は崩れ、つぶての命中精度も高くない。
エマの斥候の訓練は冒険者パーティにおける斥候の役割など、勉強になる部分はあった。
が、肝心の索敵、感知魔法はやはり今ひとつ。
有効範囲は狭く、それでいて感知漏れもあるというお粗末さ。
スードナムという最高の指導者の下で練習してきたセリナにとって、物足りなさを覚えるのも仕方がないだろう。
「スーおじいちゃんの時代もこんな感じだったの?」
『さすがにここまでではなかったの。これもエンブレムシステムの弊害じゃろう』
「そうなの?」
『エンブレムの補助で魔法、剣さばきも出来るからの。頼り切ってしまうんじゃよ』
「なんか、勿体ないね」
『もともとは訓練の終った兵士に施すものじゃ。致し方ないのう』
スードナムの時代。
エンブレムシステム、紋章がない時代の人々は魔力操作の訓練を怠らず、高みを目指していた。
しかし、長い時を経てその習慣は廃れ、紋章に頼り切る生活が浸透してしまっているようだ。
一部インクのようなエリート養成機関では紋章を授章する前に多少の訓練を行うが、世界的に見れば稀なのだろう。
みんなが自らの可能性を捨てる行為に、悔しそうな表情を浮かべながらスードナムと会話を続けるセリナ。
そこへ訓練を終えたローラントたちが冒険者ギルドから姿を現した。
「セリナ、お待たせ」
「訓練、どうだった?」
「退屈だったという表情」
「そ、そんなことないです、すごく面白かったです!」
訓練の姿をセリナに見せられた、と得意げな3人。
さすがのセリナも正直に答えるわけにはいかず、作り笑いを浮かべるしかなかった。
その後は、予定通りローラントたちが過ごしたというサトリウス教会の孤児院へ。
大通りから外れた町はずれにあるらしく、道案内をしてもらいながら移動を開始。
小さい道へと入っていく。
3、4階建ての商店が多かった大通りとは違い、一軒家や長屋といった住宅地になっている。
今歩いている道とは反対側、大通りの奥の方には城壁の様な壁がそびえたっていた。
聞くところによると壁の向こう側は高級住宅街であり、貴族家や高級商店が並んでいるという。
そんな話をしているうちに孤児院に到着。
教会併設の孤児院であり、レンガ造りのこじんまりとした教会で、横には小さな畑もある。
ローラントが神父様とシスターを呼んでくるという事で、セリナはアンナ、エマと共に入り口で待つことに。
2人からここで過ごしていた時の話をしながら待つことしばし。
ローラントがサトリウス教の服に身を包んだ神父とシスターを連れ、戻ってきた。
「ドレーヴ様、プラム様、この子がセリナです」
「おぉ、この子か。はじめましてセリナ。私はこの教会を預かる神父、ドレーヴだ」
「私はプラム。話はローラントから聞きました、辛い道のりでしたね」
「はじめましてドレーヴさま、プラムさま。あの、私ここのお世話になってもよいのでしょうか?」
「もちろん。地母神スファル様はいとし子を見捨てたりしません」
「あなたの生活は私達が保証するわ」
「ありがとうございます」
この教会を任されているという神父ドレーヴは40歳ほどで細身。
横に居るシスタープラムも若く、おそらくは20代だろう。
2人ともローラントからセリナの話を聞いたらしく、快くセリナを受け入れてくれた。
セリナが思わず貴族の礼で返してしまうが、2人はその事を追及したり気にしたりする様子もない。
おそらくこちらに深く話せない事情があるのだろうと察してくれたのだろう。
ローラントたち3人は成人し、孤児院を出て下宿で生活しているので、ここでお別れ。
翌日また冒険者ギルドで落ち合う約束を取り付け、帰っていった。
セリナはシスタープラムに連れられ孤児院へ。
ここの決まり事など簡単な説明を受けながら、扉を開ける。
そこには……。
「※※※※※※!」
「※※※※※※※※※!」
「※※※……」
バルト語で楽しく過ごす、十数人の子供たちの姿があった。
「※※※※※※※※※、※※※※※!」
「※※※※!」
「※※※※※」
シスタープラムが声をかけ、子供たちを大人しくさせる。
セリナはバルト語が分からない為、なにを言っているのか分からないが、『静かにしなさい』に類する言葉であろうことは簡単に想像がつく。
「※※※※※※※、※※※※※」
「※※※※?」
「※※※」
「※※※!」
子供たちが落ち着いたところで、再びシスタープラムが言葉を発する。
すると、それまでシスターに向いていた視線が一斉にセリナへと集中した。
おそらく、新しい子が入った、と子供たちに伝えたのだろう。
「えっと、セリナといいます、よろしくお願いします」
「セリナ!」
「※※※※!」
「※※※※、セリナ!」
シグル語の自己紹介だったが、名前は何とか伝わったようだ。
子供たちは4、5歳の子からセリナより年上の子までさまざま。
そんな子供たちが拍手で歓迎してくれる中、一人の男の子が前に出ると、セリナに話しかけてきた。
「※※……オレ、ティオグリフ、よろしく」
「わぁ、シグル語出来るの?」
「少し。困ったら、頼って」
「うん、ありがとう!」
片言のシグル語でそう話してくれたのはティオグリフと名乗る男の子で、孤児院最年長の15歳。
子供達のリーダー的存在であり、ちょうどシグル語を勉強中だったらしい。
背丈はセリナよりもあり、綺麗な顔立ちの茶髪、グレーの瞳をしている。
ローラントたちや神父ドレーヴ、シスタープラムもそうだが、イクトバルトの人々は茶髪にグレーの瞳が多いようだ。
神父やシスターとしか言葉が通じないとばかり思っていただけに、片言とは言えシグル語が話せるティオグリフの存在は非常に大きかった。
さっそく彼にいろいろと教えてもらい、寝る場所を確保。
夕食の準備を手伝い、他の子達から質問攻めにされ、幼い子を寝かしつけ。
あまりの手際の良さに驚かれながら、孤児院での1日目を終えたのであった。
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