第60話 冒険者たちの実力


 薬草採取の依頼を終え、シェリダンの街に戻ってきたパットン一行。

 冒険者ギルドまで来ると、外にアンナとエマ、セリナを残し、ローラントが全員分の薬草をあずかり、報告のため中に入る。


 時間はまだ昼過ぎだが、人の多いシェリダンの街はそれだけ冒険者も多い。

 一仕事終えた冒険者たちが報告に来ている事もあり、建物の外にまで冒険者であふれていた。


 セリナはアンナたちと雑談をしながらローラントの帰りを待つ。


「お待たせ」

「遅かったわね」

「ひと、多すぎ」


 待ち過ぎて足が痛くなり始めた頃、ようやくローラントが戻ってきた。

 しびれを切らし退屈そうなアンナたち。

 そんな彼女たちにローラントは「仕方ないだろ」と宥めつつ、達成報酬を手渡した。


「報酬は300ジオ、銅貨3枚だ」

「いつも通り、ね」

「一人銅貨1枚」

「ほ、本当にそれだけなんですね……」


 依頼の達成報酬については、森から帰ってくるまでの道中と、ここで待っている間に話を聞いていた。

 ローラントたちが行った薬草採取の依頼はいわゆる駆け出し用の依頼。


 達成場所が安全性の高い「初心者の森」という事もあり、報酬はかなり低いのだ。

 その報酬、定められた薬草採取量1人分につき銅貨1枚。

 一食分になるかどうかという金額であり、宿代にすら届かない。


「じゃあ、セリナの分は私からね。50ジオ、鉄貨5枚」

「ありがとうございます」


 さらに、冒険者ではないセリナは、ローラントたちパットンに同行こそしているが、ギルドから見た場合パーティメンバーに入っていない。

 その為、薬草採取量の計算には含まれておらず、報酬自体も発生しないのだ。

 だが、さすがに無報酬はあんまりだと、いくらかは分けてもらえる事になっている。


 アンナが自分の財布から取り出した鉄貨5枚を、両手で大事に受け取るセリナ。

 形は歪、色もくすんでいる5枚の鉄貨。

 お世辞にも高額とは言えないが、初めて冒険者としてもらえた報酬は嬉しく、思わず笑顔がこぼれる。

 手のひらの上にある鉄貨を愛おしそうに見つめた後、腰巻鞄の中、正確にはこっそり開いた【亜空間倉庫】へと入れた。

 

「それで、この後だけど、本当についてくるの?」

「見ててもそんなに面白くないわよ?」

「すごく、地味」

「いいえ、皆さんがどんな訓練をしてるのか、すっごく興味があります!」


 1日の食費にも満たない依頼を受けていたローラントたち。

 実は今日の午後は用事があったため、あらかじめ軽めの依頼を受けていたのだ。

 

 その用事というのが、冒険者ギルドが行っている実技訓練。

 武器の使い方や魔法といった基本的なものから、応急手当や連携、探索などと言ったより深い事柄まで。

 ギルドが冒険者の生存率と質の向上のため行っている訓練で、費用はかなり安い。

 まさにローラントたちのような初心者にはうってつけなのだ。


 セリナとしても、今までインクでの授業ばかり受けていたため、冒険者向けの訓練がどのような物なのか興味津々。

 見学、という形でローラントたちについて行くことに。


 訓練は全て冒険者ギルドの上層階で行われ、ローラントが武道場で剣術、アンナが教室で魔法、エマも教室で斥候をそれぞれ受ける。

 内容がどんなものなのか心を躍らせながら、まずはローラントが受ける剣術の訓練を見学することに。


 ローラントと一緒に武道場へ。

 教官は引退した白銅クラスの冒険者らしく、相応に年を取っているがその視線は力強い。


 セリナはそんな教官に見学の許可をもらい、武道場の隅っこに腰かける。

 剣術の訓練を受けるのは駆け出しである鉄鋼クラスの冒険者たち、20人ほど。


 皆歳は若く、装備も皮鎧など簡素なものが多い。

 訓練用の木剣を持ち、厚手の布を巻いた打ち込み用の人形へ向け剣を振るう。


「そこ、剣はもっとしっかり握れ!」

「はいッ!」

「当てるんじゃねぇ、ぶった切るつもりで当たれ!」

「はあぁっ!」

「紋章に頼るな! 動きを体に教え込むんだ!」

「てやぁっ!」


 威勢のいい声と共に人形を木剣で叩く音が武道場に響き、それ以上に大きな声で教官の激がとぶ。

 熱気漂う、活力あふれる武道場。


 だが、セリナはこれを少しばかり冷ややかな目で見ていた。


(これ……みんな本気でやってる、の?)

『かーっかっかっか! 冒険者ともなると練度は大きく下がるのぅ!』


 そう、ローラントを含め、ここで訓練を行っている冒険者たちの動きがとても悪いのだ。

 ここに居る全員が紋章持ちであり、サポートを受けているはずだが、それにしても動きにキレがない。


 インクの子達と模擬戦をすれば、ルフジオは話にならず、パベルや魔術よりの特待生といった剣術が苦手な子達でも楽勝。

 セリナであれば武器無しで全員を同時に相手しても余裕だろう。


(もうちょっとみんなすごいのかと思ってた……)

『ほっほっほ。セリナはインクしか知らなんだからのぅ』

(スーおじいちゃん、知ってた?)

『わしも知らんかったよ。みな駆け出しじゃし、こんなものじゃろう』

(でも、インクに入ったばかりの私やレリック、パトリックより……)

『その2人も平民出とは言え特待生じゃ。そもそもの資質が違うのぅ』

(そうなの?)


 今ここで訓練している彼らは全員平民だ。

 成人し、紋章を持っている。

 にもかかわらず、平民出のインク特待生、レリックやパトリック、そしてセリナがインクに入校した当時よりも動きが悪い。


 その事を不思議がるセリナだが、スードナムによるとそもそもの資質、インクで言う神聖力の違いが大きいという。


『そうさのう、ここに居る者たちを神聖力で表すなら500から2000と言ったところじゃろう』

(ええっ!? じゃ、じゃあの教官さんは?)

『ふむ、5000程かのう』

(そ、そうなんだ……)


 スードナムからローラントたち駆け出し冒険者の資質を神聖力に換算した数値を聞き、驚くセリナ。


 インク入校時のセリナの神聖力は驚愕の130000。

 これは度外視するとしても、同じ平民出のレリックで26700はあったのだ。

 そこから考えると、500から2000という数値がいかに低いかが分かってしまう。


 思わず表情を曇らせてしまうが、誤解する事の無いように、とスードナムに指摘され、首をかしげてしまう。


『そも、インクの子達が才能豊かすぎるのじゃよ』

(あ……)

『あそこはジェイオード王国各地から集められた金の卵が集まっておった。違うのは当然じゃて』

(そっか……)


 インクはジェイオード王国が全国で子供たちに神聖力検査を行い、合格した者だけが入校できる学校だ。

 セリナが居たのはその中でもさらに優れた神聖力を持つ特級・特待生クラス。

 むしろインクの方が異質であり、世間一般には今目の前にいるローラントたちのような人が大多数。


 スードナムに諭され、その事実を噛みしめながら剣術訓練を見学。

 適当なところで見切りをつけ、アンナやエマの訓練を見るため、移動したのであった。

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